話せないのには、訳がある
ローズはなんだかんだ言いながら、予備用に持っていた、水色のワンピースを貸してくれた。それに着替え、着ていた制服をカバンにしまうが、意外に食料が嵩張る。
よし、今から食べてしまおう。
「パンとお菓子があるけど、食べる?」
「いただきますわ」
毒見は必要なので、私が先に食べる。
安全を確認して渡すと、彼女はため息混じりに話し出した。
「そういえば、あの手紙を読みましたけれど、相も変わらずトンチンカンなことを考えつきますのね。感服いたしましたわ」
心の友は、とても素直だ。
「もしかして、貶されているのね、私」
「もしかしなくても、ですわ。事情がわかる私ですから、アリスの気持ちは理解できますけれど。
私から言えることは、一つだけよ。ラウル様の言葉を鵜呑みにしてはいけないわ。基準値を大幅に振り切った天邪鬼、もしくは、照れ屋さんとして接して差し上げて。とても難しいけれど、大事なことなの。時間をかければ、少しずつ状況が変わって行きますわ」
そういえば、家族も友だちは、私の境遇や気持ちを分かっていながらも、なぜかラウル様を推す。
「どうして、ラウル様の肩を持つの?」
「応援したいからですわ」
さも当然のようにローズは言うが、ラウル様と交流などあっただろうか。それに、私よりも彼の味方をするなんて、親友としてはどうなのだ。
「……何か知っているでしょう。どう考えても、みんなの様子がおかしいもの」
「あら、アリスも周りを見られるようになったのですね。最後まで、気付くことはないと思っていましたわ」
「最後? いつか終わるってこと?」
「口が滑りましたわ。お忘れになって結構よ。悪く思わないでくださいませ。事情がありまして、詳しいことは言えませんの」
やはり、そうだ。
私以外のみんなが、何らかの情報を持っていて、それを隠している。それは婚約に纏わることのようだけれど、なぜ言えないのかが分からない。
誰かに口止めされているのかもしれない。
「……もしかして、ラウル様に脅されているの?」
親友は目をまん丸にした後、ポケットに手を入れると優雅にハンカチを取り出した。
「……ラウル様が気の毒すぎて、私、涙が止まりませんわ」
嘘泣きやめい。
「殿下、彼らが出てきます。お静かに」
小屋の外にいる男性から、声が掛かった。
ローズと私は息を潜めて、気配を消す。
小屋の壁に使われている板の間から外を見ると、いかにも普通の夫婦三組が、子どもを真ん中にして手を繋いでいる。
ぎこちなさもあるだろうが、私の目には、両側から拘束して、逃亡を阻止しているようにも見えてしまう。
やはり、先入観とは恐ろしい。
一つの物事でも、受け取り方によっては、何通りもストーリーができてしまうから。私も気を付けよう。
「殿下、参りましょう」
合図とともにドアが開くと、男性が驚いていた。ローズだけかと思ったら、私もいるからだろう。
平民に扮しているが、おそらく彼も騎士だ。温和で誠実そうな人に見える。
「マルセル、こちらは友人のアリス。急遽、同行することになりました。よろしく頼みます」
「は、はい。承知しました」
騎士は動揺しながらも誘導してくれた。時折り、チラチラと指輪を見るけれど、宝飾品が好きなのだろうか。
「初めまして。アリスと申します。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。私のことは、マルセルとお呼びください」
マルセル様が、作戦の説明をしてくれた。
まずは、私たち三人が散歩を装い、尾行する。他の騎士は距離を置いて着いてくるので、安心だ。隠密部隊も動いているので、万が一、私たちが彼らを見失っても問題ないという。
「ん? やっぱり、ローズはいらなくない?」
「同じ質問は、受け付けませんことよ」
三組の養父母と子どもたちは街に入ると、他の店には目も暮れず、どんどん歩いて行く。
「お菓子とか買ってあげないのかなあ」
「それよりも、行き先が同じだなんておかしいですわ。自宅で歓迎会をする気はなさそうですわね」
やがて、彼らは小さな家具屋に入った。
「家具を新調するのかな?」
「みんな同時に? あり得ませんわ」
「殿下、私が裏口を見て参りますので、代わりに護衛を一人呼び寄せますが、よろしいでしょうか」
「ええ」
「しばらくお待ちください」
マルセルは、小型の通信用魔道具を取り出した。
「ラウル、許可が下りた。来てくれ」




