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十六、白秋の計画2

 顧客リスト。政財界の大物達が、児童買春を行った証拠が、ある程度の量に達し始めると、白秋は行動を始めた。

 まずは常連客で話し易そうなタイプの者に、物価連動型国債の話を持ちかけ、反応を窺ったのだ。景気が回復しても、財政破綻が起きても、利益を得られる仕組み。良好なケースもあったし、そうでないケースもあった。もちろん、そうでないケースには、強引な手段に出ることもあった。堺ツユの登場だ。ツユは巧みな話術と、弱味を握っている優位を利用して交渉を成功させていった。彼女の助けがなければ、白秋にその数の交渉を成功させる事はできなかったかもしれない。

 そんなある日、ツユは白秋にこう尋ねた。白秋の部屋で、白秋が何かの書類をまとめている最中に。

 「交渉は成功しているけど、これ、実際に金が動いている訳じゃないわよね? あなたが、国債を買うと約束した金持ち達を集めているだけだわ」

 高校生になってしばらくが経つと、ツユは白秋がやろうとしている事を、理解し始めていた。そして理解ができれば、自ずから次の疑問が彼女に沸いてしまう。それは、その疑問からの問いかけだった。

 「一体、これでどうやって、金を稼ぐ気でいるのよ? 断っておくけど、私ももう子供じゃない。ちゃんと、説明しないと納得しないわよ?」

 それを聞くと白秋は笑った。

 「君はまだ高校生だろう? 高校生はまだ子供だよ」

 「子供みたいな姿のあんたに言われたくないわよ。てか、5歳くらいしか変わらないでしょうよ。どーでも良いから、説明しなさい。私にも分かるように。

 私はあなたを信用なんかしてないの。計画を教えてくれなくちゃ、不安で仕方ないわ」

 白秋は軽く溜息を漏らすと、こう言った。

 「まぁ、良いだろう。君も重要なパートナーになって来ているし、そろそろボクの話を理解できるくらいの知識は得ている」

 「偉そうにするのは良いから、教えなさい」

 少し微笑むと白秋は言う。

 「まず、確かに君の言う通り、実際には金は動いてないよ。一銭もね。しかも、国債を売っても、それだけじゃボクらの手元に利益は入らない。国に金は流れる。僕らの持つ契約で集められる金の量は膨大だけど、これではどうにもならない」

 ツユは腕組みをする。

 「だけど、国債を買って欲しいと思っている連中は国にはいる。そして、私達を通してじゃないと、その国債を買おうとしている顧客達は手に入らない……。

 つまり、営業で中間マージンを手に入れようって言うの?」

 そのツユの言葉に、白秋は面白そうな声を上げた。

 「うん、頭が良いな。だが、そうじゃない。もちろん、それも頂くけどね。その程度の金で満足はしないさ」

 ツユは不思議そうな声を上げる。

 「じゃあ、どうするのよ?」

 「集めた契約を取引材料にして、官僚達と交渉するんだよ、また」

 「なんて?」

 「国債を売って得た金の一部の資金の運用を、ボクらに任せてもらう」

 それを聞くと、ツユは表情を歪ませた。

 「それって、つまりは、ファンドみたいな事をするって意味? 富裕層から金を集めて運用益で荒稼ぎ……。

 上手くいく訳ないじゃない。私達は、投資の素人なのよ? 白秋、あんたがいくら頭が良いからって、スーパーコンピューターで高度な微分積分とか使って金融取引をやっている連中と同じ事ができるはずがないでしょう? というか、そもそもファンドだって大損するのは珍しくない」

 白秋は淡々と答える。

 「正しいね。でも、安心して良いよ。マッチポンプみたいなもんだから。自分がマッチで火を点けて、自分がポンプで消火する。つまり、確実に利益を上げられる方法で、ボクらは資金を運用するんだ」

 「そんな事ができるの?」

 「できる」

 白秋はにやりと笑う。

 “悪そうな笑顔”と、それを見てツユは思った。

 「国に制度を作らせるんだ。例えば、再生可能エネルギーを造る為に、料金か税金を集めるような……。国は、当然、何処かにその製造を依頼する。その依頼する企業に、ボクらは投資をするんだよ。その企業に国が金を払うのは決まっているから、成功は約束されているようなもんだ。まぁ、今の政治家とか官僚とかがやっている紐付き公共事業と、同じような発想だけど。

 因みに、この制度を作るにあたって、初めの一回は、通貨を刷ってもいい。通貨需要が増える分だけ、通貨供給量を上げるんだから、悪性のインフレは発生しないで済む」

 腕組みしながら、その白秋の説明をツユは聞いていた。

 「そんな制度、どうやって作らせるのよ?」

 「フン」と白秋は言う。

 「だからボクらは、政財界の大物達の弱味を握り続けているんじゃないか。こいつを最大限に活用するんだよ。もちろん、先の“国債を買う顧客達”って餌も使うけどね。それと、この制度の意義を国民へ理解させる事も忘れちゃいけない」

 「国民へ理解させるって?」

 「金ってのは使えば自分達に戻って来るって理屈を理解させるんだよ。確かに、再生エネルギーの為に金を取られる。でも、その分、収入も上がるんだな。

 これを理解させられれば、制度成立への障害はかなり減る」

 それを聞いてツユは迷った。まだ良く、それを呑み込めない。

 「ちょっと待って分からない。税金は取られるけど、戻って来るって事?」

 「そうだよ。税金を還元させるように使えばね。考えてもみなよ。使った金は何処かに消える訳じゃない。循環しているだけさ。だから国内で大半を使えば、自分達に戻って来る。そういう単純な理屈だ。

 金は天下の回りものってね」

 ツユは頭を抱える。確かに、正しいように思える。少なくとも間違っている点を指摘できない。

 「それが上手くいくって証拠は?」

 すると、自信ありげに白秋はこう答えた。

 「ボクの能力を忘れたのか? ツユ。ボクの“幻生”は、人間関係を幻として表現できるんだよ。そして、実は通貨ってのは、人間関係の中に生まれるモノなんだ。つまり、ボクの能力を使えば、社会全体で通貨の循環がどうなっているかが分かる」

 そう白秋が言うと、白秋の背後の空間に、まるでたくさんの血管のようなものが浮き出てきた。半透明で、中に何かが流れているのが分かる。循環している、何か。

 ニヤリと笑いながら、白秋は言った。

 「通貨ってのは媒介物。栄養とエネルギーを運ぶ血液と、概念上は、実はとてもよく似ているのかもしれない」

 つまり、今浮かんでいるそれこそが、この社会に流れる“通貨”の幻なのだろう。

 「“通貨の循環”の、元のアイデアは赤春が出した。でも、アイデアだけじゃどうにもならない。社会全体に流れるそれに、効果的に働きかけるのには、ボクの能力が最も適しているのさ。

 ボクになら、できる」

 それを聞き終えると、ツユは言った。

 「そして、それは、国民に“通貨の循環”を理解させるのも、政治家や官僚に、その制度を作らせるのも、あなたのその能力があれば、何とかなるって事なのかしら?

 働きかけて、あなたの幻で反応を確かめる。その繰り返しで……」

 「その通り」

 その返答にツユは笑った。

 「なるほどね。面白い。いいわね、納得してあげる。あなたの計画、乗ったわ」


 数年後、充分な政財界の大物達とのコネクションを得ると、白秋は本格的に行動を開始した。

 既に、児童買春を利用していた大物達以外の要人との結びつきをも彼は獲得していた。ある程度の数が動けば、それに釣られて、他の人間達も動くのが社会の常だ。それは一つの巨大なグループのようなものになってすらいた。そして、その実質的なトップは、白秋である。彼がその集団をまとめ上げていた。家畜化された人類である彼に、政財界の大物達は操られていたのだ。

 ――ある会議室。

 「これだけの規模の資金です。あなた達だって欲しいはずだ。ボクらの提案に乗った方が得ですよ」

 白秋がそう言った。隣には、ツユの姿も。恐らく官僚だろう一人が言った。

 「確かにその資金は魅力的だ。その為に、一部資金の運用を任せるくらいの事は考えよう。しかし、その先は手伝えないぞ。潮田氏と敵対する気は我々にはない」

 どう利益を上げる気でいるのか。

 何も言わなかったが、その人物は明らかにそう訴えていた。白秋は笑う。

 「それはご心配なく。準備は整っていますからね……。少なくともあなた方はボクの邪魔をする気はないのでしょう? ボクの提案した制度が実現すれば、あなた達だって助かるのですしね。潮田氏はボクらが何とかしますよ」

 白秋にとってのパズルの最後のピースが、あともう少しで埋まりつつあった。

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