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エピローグ

「あっつ……」

 布団の中に熱がこもっている。あまりの寝苦しさに目を覚ました。

 色々あって季節を振り返る余裕もなかったけど、既に五月の半ばである。気温も徐々に上がってきて、布団が快適な時期も終わりを迎えようとしている。

 学校では衣替えを済ませた生徒も増え始めていた。

 にしても、暑すぎないか? 夜はまだ涼しくて寒いくらいなのに。


「おはよ、お兄♪」

「……は?」


 まだ、夢を見ているのだろうか。なんか布団の中に風花がいた。

 しかも、腕から肩にかけて真っ白な肌が露出している。肩に青い二本の紐が掛かってるけど――これはあれか? ブラジャーの肩紐か?

 そこから下は布団に隠れていて幸いなことによく見えない。

 寝起きで頭が働いていないがつまりなんだ? 

 こいつは今、下着姿ってことなのか? なぜ? Why?

「なんで上、着てないの?」

「それはもちろん、お兄を誘惑するためだよ♪」

「へーなるほどね」

 布団をめくったら下着姿の妹が登場! ってことだな。

 とりあえず弁解しておく。昨日、俺が布団に入った段階では、この狂人の姿はなかった。決して事後とかではないです。

 明け方になって、勝手に布団に潜り込んできたんだと推察する。

「だって、お兄にはフーの裸に慣れてもらわないと!」

「…………」

 風花を好きになる努力をする。そう約束はしたのだが、あれから日も経っていない。

 妹の裸とか下着姿には嫌悪感しかなかった。シンプルに気色が悪いです。

「お気に入りのブラなんだぁ、見る?」

「いや、大丈夫」

「ちなみに下はTバック、だよ?」

 耳元で囁かれる。

 やれやれ、絶対に布団をめくれなくなったぞ。

「お兄、興奮してる?」

「そうだな。主に怒りの方面で」

 ただでさえ朝に弱いというのに、頭のおかしい妹の相手をしなくてはいけない。

 意識が覚醒していくにつれ、怒りの感情がふつふつと湧いてくる。

「怒んないでよぉ、お兄ぃ」

「おい、バカ! やめろっての! 足を絡めてくるな!」

 布団の中で足を絡めてくる。寝間着に覆われていないふくらはぎに、風花の太ももが蛇のように巻き付く。

 すべすべで、無駄に柔らかくて、とにかく鬱陶しい。

「すりすり~♪ すりすり~♪」

「……っ!」

 いかん。朝ということもあって反応させてはいけない部分に血が集まる。

 実の妹に反応したとなれば末代までの恥だ。必死に耐える。

「ぺろ」

「っっっっっっっ!?」

 突然、耳を舐められた。

 形容したくない刺激が全身へと駆け巡る。いよいよマズイ。完全に妹に襲われている。抵抗しないと大変なことになるぞ。

 枕元のスマホに手を伸ばし、風花対策のアレを使うことにする。

 諸刃の剣だが、背に腹は代えられない。


「あぱダンス! あぱダンス! あぱダンス!」

『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』


 念の為、ブックマークしておいた親父のネタ動画を流す。

 風花はもちろんのこと俺も絶叫していた。共感性羞恥が俺たち兄妹を襲う。

「お兄、何やってんの!? 正気!?」

「こうでもしないと止まらないだろ、お前!」

 捨て身の甲斐あって効果は絶大だった。

 さっきまでのピンク色なムードは見事に霧散している。

「せっかく、お兄と朝えっちしようと思ったのにぃ」

「段取りを踏め! 段取りを! 恋のABCってのがあるだろ!」

 猶予は一年あるんだ。いきなりBとCに挑む必要はない。

 そもそも俺の心の準備が出来てないんだって。まだ風花のことは妹としか思えない。

「じゃあ、段取りを踏もうよ!」

 風花は目を瞑り、唇を突き出してきた。

 ……何を求めているのかは分かる。

 まじまじと隣で横たわっている妹を観察させてもらう。長いまつ毛、きめ細やかな肌、桜色の小さな唇。間違いなくとびっきりの美少女だ。

 俺だって男だ。このシチュエーション、妹じゃなければとっくに――――

「風花」

「お、お兄……」

 こっちからも歩み寄ると決めたんだ。これくらいサービスしてやらないとな。

 ゆっくりと風花に顔を近づける。

 そして、唇ではなくおでこに口付けをした。

「うえぇ!? なんでおでこ!?」

 どうやらご不満みたいだ。

 頬を膨らませて、ぶーぶーと抗議をしてくる。

「今はこれが限界! はい、ってことで終了! 朝飯にするぞ!」

 あられもない姿を視界に収めないようにして布団から抜け出る。

 背中を向けたまま部屋の扉口まで向かう。

「あ、お兄! 待って!」

「なんだよ?」

 ドアノブに手を掛けたところで風花から引き留められる。

「お兄、今パンツ履いてないよ? フーがこっそり脱がせたから!」

「はぁ!?」

 言われてみれば、半ズボンを履いているのに股の辺りがスースーする。

 腰回りを締め付けるボクサーパンツ特有の感覚もない。おそらくズボンとパンツを一度に脱がせて、その後にズボンだけ履かせたということだろう。

 え、なに? じゃあ、アレを見られたの? 実の妹に? あ、死ぬしかない。

「天、愛してるぜ。妹に大事な部分を見られた。俺は先に逝く」

「大丈夫! ち◯ちんは見てないから!」

「ちん◯ん言うなっ!」 

 妹の口から聞きたくない言葉トップ3には入る。

 家族とこの手の話はしたくないんだって。もちろん天とならいくらでも話したい。顔を赤くする天が見たいなぁ。じゅるり。

「はぁ……それで? なんでこんな事をしたんだ?」

「どうしてもお兄のパンツが食べたくて! ちょっとだけ味見しました、てへへ☆」

「うわ、頭おかしい!」

 やっぱり、コイツを幸せにするのやめてもいいですか……?

 兄のパンツ食べる妹ってなんだよ。妖怪やん。誰か退治してください。


「これからも頭のおかしい妹をヨロシクね、お兄?」

「自分で言うな!」


 この先も頭のおかしい妹と付き合っていく。

 その最悪な事実を再認識して、大きく、大きくため息をついた。

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