プロローグ
「好きです。付き合ってください」
「……正気か?」
放課後の屋上。茜空の下、俺は一人の女子生徒と向き合っている。
淡い水色のセーラー服姿。都立大宮前高校の指定制服だ。
オールドスタイル×パステルカラー。不易流行。デザイナーのセンスが光る制服には、女性嫌いの俺でもシンプルに「可愛いらしい」という感想を抱く。
夕焼けと青空色の対比が絵になっている。
それに加えて、身に纏う人物の容姿が芸術性をより高めていた。
色素の薄いロングヘアー、整った目鼻立ち、長くスラっとした手足。主観はさておき、客観的には『美少女』の言葉がふさわしい人物だ。
「ひどーっ! 女の子が勇気出して告白してるんだよ!?」
全くその通りだ。相手に酷い言葉を投げ掛けている自覚はある。
正直、ここに来るつもりはなかった。答えは決まっていたから。それでも、清水の舞台から飛び降りるような気持ちで手紙をくれたんだ。
決して無下にはできない。だから、屋上に出てきた。
「どっから声出しているんだ……。媚びた声が気持ち悪いぞ……」
でも、許してほしい。この展開は想定していなかった。出来るわけがない。
「ううぅ、『お兄』がさっきから冷たいよぉー」
「そうなんだよ。問題はそこだ」
目の前にいる女子生徒のことはよく知っている。知っているとも。
才色兼備、文武両道、品行方正。
大層な四字熟語がいくつも当てはまる学校一の有名人。彼女の一挙手一投足は学校中の話題となる。友達が少ない俺の耳にも噂は届いていた。
その名を一ノ宮風花。
男子諸君がお近づきになりたいと切望する美少女――そして、俺の双子の妹である。
大事なことなのでもう一度言う。
一ノ宮風花は俺、一ノ宮雪月の双子の妹である。
血の繋がってない妹分だとか、義理の妹だとか、実は従妹だとか、そんな逃げ道はない。
正真正銘の実妹である。二卵性双生児で、俺が先に生まれ、風花が後に生まれた。
「問題って?」
「近親相姦って知ってるか?」
賛否については様々な議論があるので言及を避けるが、事実として多くの文化において禁忌とされてきた行為だ。
「どうでもいいよ、そんなの」
「おー、まじか」
絶対にどうでもよくないだろ。倫理観どうなっているんだ。
「あらためて言うね」
「やめろ、聞きたくない!」
悪い夢であってくれ。そんなフラグはなかったはずなんだ。
俺たちはどこにでもいる普通の兄妹で、禁断の愛に目覚めるような関係ではない。
一体、どこで歯車が狂ったんだ。
「お兄が好き。付き合って」
何が彼女をここまで駆り立てるのか。
それは分からない。分からないけど、返答は決まっている。
俺もあらためて言わせてもらおうじゃないか。
「正気か?」
それ以上の言葉が見つからなかった。後は何も考えられない。考えたくもない。
赤く染まった空を見上げて、平凡ないつもの日々に想いを馳せた。




