↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/25

第5話:祝日同期《リアルタイム・ハック》と、期待値ゼロの政治遊戯

七月二十日。

私の「記憶」が正しければ、元の世界では『海の日』と呼ばれる祝日だ。



異世界にそんな祝日があるわけがない——そう考えてる読者さんたち。実はこの王立魔法学園にも、まったく同じ日付に制定された、全校休戦の絶対的な祝日が存在する。


『学園創立記念日』。


すべての授業が停止し、エリート貴族たちが泥沼の『次期生徒会長選』という不毛な学内政治にリソースを浪費するために用意された、システム上の合法的な空白期間。


「アユミリス。お前、我が派閥のメッセンジャー(連絡係)に推薦してやったぞ。光栄に思え。Fランクのお前でも、生徒会長選の神聖な道具パーツとして働く機会を与えてやる」


休日を翌日に控えた放課後。クラスのAランク令息ジークが、取り巻きを引き連れてホナの机を叩いた。

彼らはホナを便利な『デコイ』として使い、対立派閥からの嫌がらせや伝令の摩擦コストを押し付けようと目論んでいた。


しかし、ホナの脳内演算システムは、すでに彼らの行動期待値をコンマ数秒でシミュレートし終えていた。



【対象:ジーク・バレンタインの行動ログ解析:正常】

【予測される政治的リターン:ゼロ】

【発生する人間関係コスト:極大】

【結論:完全なる不戦敗システムエラーを演じ、ターゲットから除外パージされるべし】



「申し訳ありません、ジーク様。私は不器用なFランクですので、そのような大役を務めれば、ジーク様の輝かしい派閥の足を引っ張ってしまいます。……その日は自宅で大人しく、大人しく、寝ておりますので」


ホナは怯えた無能のペルソナを完璧に演じ、わざとらしく書類を床にぶちまけてみせた。

そのポンコツぶりに、ジークたちは「ちっ、本当に使えないゴミめ」と吐き捨て、すぐに興味を失って去っていった。


(完璧ね。彼らが学園という狭い水槽の中で、一日中『おままごとの権力闘争』に血道を上げている間——私のスケジュールは、別の『海』へとデプロイされるわ)


ホナは重い前髪の奥で、冷徹に微笑んだ。

誰もいない祝日の学園。防衛システムが『休日モード』に切り替わる、24時間のセキュリティの脆弱性。それこそが、ホナが狙っていた本当のチェックメイトだった。





七月二十日、午前四時。

ホナは漆黒のライダースーツを纏い、裏社会のギルド『アルカノム』の最深部に立っていた。


「アッシュ、本当にやるんだな? 今日、学園側は創立記念日の祭典で上層部が警備を手薄にしている。だが、その裏で動く今回の輸送ルートは……最悪だ」


主席査定員の男が、王都の南に広がる『死の魔海』の海路MAPをホログラムで展開した。


「隣国の特使から極秘裏に託された『国家最高機密の外交文書』を、海を渡って届けてほしいという依頼だ。だが、現在その海域は、異常活性化した巨大な水棲魔物の群れによって完全封鎖されている。船を出すこと自体が自殺行為だ」


「問題ないわ。誰もが『今日は陸で政治遊戯を楽しんでいる』と思い込んでいるこの祝日こそ、海路の防衛網が最も手薄になるタイミング」


ホナは手元のコンソールに指を滑らせ、魔獣のシステムを『換装』モードへと移行させた。


「エリートたちが泥舟の主導権を争っている間に、私は本物の海を支配し、金貨千枚の報酬を回収サルベージする。……神造魔獣、海戦形態(ディープ・シフト)の起動プロセスを開始して」



【システム承認:正常】

【七月二十日:『海の日』のスケジュールをハックしました】

【スタンドアローン・キャリア:アッシュ。——これより、絶対不可侵の海戦領域へデプロイします】



王都の地下ドックから、轟音と共に姿を現す銀色の魔獣。

その形態は、陸を駆ける獣から、深海を統べる最凶の『海神』へとその構造を劇的に組み替えていく。

現実世界の時間軸と完全に同期した、伝説の運び屋の「洋上無双」が、いま幕を開けた。(第6話に続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。