第21話:新学期直前!高級魔道具ブランド『VALKANOR』の最新秋モデル回収ミッション
夏休みが終わりに近づくにつれ、学園周辺の空気には独特の焦燥感が混ざりはじめる。宿題の山と残された日数の少なさに絶望する生徒たちの悲鳴が、遠くから聞こえてくるようだ。
だが、完璧な時間管理術によってすべての課題をデプロイし終えた私——ホナ・Fランクモブ令嬢——にとって、このカウントダウンはただの「予定通りのステート遷移」に過ぎない。
「ふう……冷えたソルティ・カザフ(清涼飲料水)が沁みる……」
地下要塞の快適な室温の中、塩チョコの塩分と清涼飲料水の爽快感を同時に摂取しながら、私は手元の情報端末に届いた緊急依頼の画面を確認していた。
【緊急要請:YARENDEZ広報部より暗黒ルート経由】
対象:VALKANOR秋の新作『無駄に7色に発光する超高速魔導スケジュール帳』限定100個
状況:旧校舎裏にて、派閥争いに破れた自称・裏の権力者グループが配送車を強奪。
許容作業時間:3分50秒(これを超過すると新学期前の物流ダイヤに乱れが生じます)
報酬:ソルティ・カザフ(塩チョコ&ドリンク)1年分 + ルミナリアとのティータイム確保時間(3分50秒)
「報酬が魅力的すぎる。依頼を受諾します」
断る理由がどこにも存在しない。私は立ち上がり、出撃の準備を整える。かつて愛用していた大雑把な『極限掘削用スコップ・改』は、要塞の壁にインテリアとして固定されたままだ。あんな物騒でスマートじゃないツールは、洗練された裏社会最強の『運び屋』としてとっくに卒業したのだから。
私は指先に超精密魔導ピンセットを装着し、超小型物理衝撃波発生器の出力を調整した。
「よし。クロックオーバー開始」
【0分00秒〜0分45秒:現場到達】
時間管理魔法を全開にし、物理的な最短ルートを最速ステップで駆け抜ける。旧校舎裏の影になった廃倉庫前。そこに、派閥抗議のつもりで荷物を抱え込んだ哀れな自称・権力者たちが集まっていた。
「ハハハ! YARENDEZ傘下『VALKANOR』の限定秋モデルを抑えたぞ! これで学園の主流派も我らに頭を下げるはず——」
【0分45秒〜1分30秒:制圧および回収】
「失礼、時間がないのでノータイムで失礼します」
ドヤ顔で語り合っている彼らの隙間に、私は音もなく滑り込んだ。指先をパチンと鳴らし、精密な物理衝撃波をピンポイントで展開。相手の防衛陣形と物理障壁をコンマ2秒でブレイクする。
「な、なんだ!? 敵襲——」
彼らが反撃の魔法を詠唱するより早く、私は奪われた箱からあふれ出していた『VALKANOR』特有の「無駄に高輝度な7色LED発光」を逆手にとり、物理反射鏡のガジェットで光を敵の顔面へ集中的に反射させた。
「ぐわあぁぁ!? 目が! 目が発光性能の無駄な高さのせいだ!?」
「回収完了。物理干渉ゼロ、所要時間わずか38秒です」
【1分30秒〜2分30秒:デプロイ完了】
奪還した限定品100個を空間転送ボックスへ放り込み、YARENDEZの正規物流ルートへと再デプロイ。端末に「MISSION COMPLETE」の通知が踊る。
「ふう。完璧なタイムスケジュール。残り時間は1分20秒……予定通り、ルミナリア様とのティータイムに滑り込める」
ルンルン気分で地下要塞の重厚な扉を開けると、ソファに腰掛けていたルミナリアが美しい完璧なシルエットを揺らし、こちらを振り返った。
「おかえり、ホナちゃん。見事な時間管理だったね。回収ミッションの成功祝いに、YARENDEZの特命ラインから届いた超限定の秋モデルを君にあげよう」
「わぁ、ルミナリア様! 本当ですか!? VALKANORの新作文房具でしょうか?」
目を輝かせる私に対し、ルミナリアは漆黒の高級感あふれる箱の蓋を、スーッと優雅に開けた。
「いや、VALKANOR限定『金箔エンボス加工・ハイレグレジスタンス水着(秋の特別仕様)』だ。新学期の室内温水プール授業用にぴったりでしょ」
「——!?」
箱の中から現れたのは、あまりにもハイレグで、あまりにも布面積が削ぎ落とされ、そしてあまりにも洗練された最高級のアパレルだった。
その瞬間、私の脳内視覚センサーがコンマ1秒で過酷な現実を演算し尽くす。
目の前で微笑むルミナリアの、あまりにも神々しく圧倒的なスタイル(モデル体型)。
そして、己の胸元を見下ろした時の、地平線のように平坦かつ圧倒的なモブ体型。
体積差、曲線の有無、ブランド水着を着た際の着こなしの絶望感——。
【警告:体型スペック格差が許容限界値を突破しました】
【システム判定:水着絶対拒否プロトコル・即時発動】
「むむむむ無理です!! 寸法的に、構造的に、社会的に不可能です! 私はFランクの地味モブなので、スクール水着(旧型・控えめ)すら辞退したいレベルなんですよ!?」
「だけどホナちゃん、VALKANORの新作だぞ? 撥水性と魔導耐性が極めて高い」
「ブランドの威光をもってしても! 私の胸元の平坦さ(モブスペック)をカバーすることは不可能です!!」
私は叫びながら、報酬のソルティ・カザフ(塩チョコ1箱)を素早く抱え込むと、完璧な時間管理魔法で計算された「最速の脱出・退避ルート」を全力疾走で駆け抜けた。
「ホナちゃん、逃げなくてもいいのに……」
背後で聞こえるルミナリアの困惑した声を振り切りながら、私は地下要塞の通路を爆走する。
新学期まで、あとわずか。ポンコツ魔法学園の派閥争いなど知ったことではないが、自分の平穏なモブ日常と尊厳を守る戦いは、これからも完璧なスケジュールで続いていくのだ。
(第22話に続く)




