第14話:真夏の地下要塞氷結カフェと、過熱したポンコツ魔導かき氷機
真夏の魔法学園は、いよいよ酷暑のピークを迎えていた。
「あ、ありえない……! 我が誇り高きVALKANORブランドの最新作『全自動・魔法極冷かき氷機』が、氷どころか火柱を上げて爆発しただと!?」
「ひ、ひぃぃっ! かき氷を食べようとしただけですのに! 冷やすどころか周囲の室温が四十度を超えましたわぁっ!」
学園のテラス席では、YARENDEZ社から金に糸目をつけずに買い叩いた高級魔道具を囲み、派閥争いに明け暮れる貴族の生徒たちが悲鳴を上げて散らばっていた。
VALKANOR製のかき氷機は、金メッキの豪華な外観とは裏腹に、魔力で氷を生成する冷却魔法回路と刃を回転させる駆動回路が同一線上でショートするポンコツ設計。氷を削ろうと出力を上げれば上げるほど熱を帯び、最終的には高熱の火花と炎を噴き出すという欠陥品であった。
そんな地上階の惨状から完全に隔離された、旧校舎の深層——ホナの地下要塞。
「ふぅ……。二度冷やしした『ソルティ・カザフ(清涼飲料水)』の氷で作る特製かき氷……完璧な温度管理と削り出し密度です。ルミナリア、どうぞ」
「わぁ……! すっごくふわふわで綺麗! ありがとう、ホナちゃん!」
氷点下の冷気を心地よく循環させた極冷リビング(室温22度固定)で、ホナとルミナリアは冷たいかき氷を囲んでいた。
テーブルの中央で静かに澄んだ駆動音を奏でているのは、ホナが自作した『超精密マナ・シェイバー(かき氷機)』。
魔力回路の負荷を完全に分散し、ソルティ・カザフの持つ独特の塩気と甘みを損なわないまま、マイクロメートル単位で氷を薄く削り出す特注ガジェットだ。削り出された氷の上には、砕いた『ソルティ・カザフ(塩チョコ)』が美しくトッピングされている。
「うーん……口の中に入れた瞬間スッと溶けて、塩チョコのザクザク感と清涼感が最高だよ……!」
「ふふ、光栄です。時間管理プロトコルに基づき、一番美味しい食感(質感)を維持しております」
ホナは表情ひとつ変えないまま、大好きなルミナリアが美味しそうにかき氷を口に運ぶ姿を静かに見つめる。
(……尊い。外の酷暑を完全にシャットアウトし、最高のかき氷で先輩を癒やす。これこそが至高の夏休みプロトコルです)
だが、その完璧なひとときを破る無礼な振動が、地下要塞の隔壁を激しく揺らした。
『おい! 開けろ! この地下室から信じられないほどの極冷気と、美味そうな氷の香りが漏れ出しているぞ!』
『VALKANORの技術陣を率いる我が派閥の命令だ! Fランクの地味モブめ、そのかき氷機と冷房設備を我が手に引き渡せ!』
やってきたのは、地上でVALKANOR製のかき氷機を暴走させて熱中症寸前になったイキり貴族と、その技術者たちだった。彼らは地下から漏れ出す心地よい冷気と氷の気配を察知し、力ずくで強奪しに押し寄せてきたのだ。
「ひゃいっ!?」
「……チッ」
思わず肩を跳ねさせた先輩に対し、ホナは目にも止まらぬ素早さで舌打ちを殺すと、冷徹なスイッチをカチリと入れた。
(……ルミナリアとの尊いかき氷タイムを害する騒音ノイズ。即座に物理デプロイ(ゴミ分別処理)を行います)
「先輩、少々失礼いたします。外部排気口のノイズ清掃を行ってまいります」
「えっ? 清掃……?」
ホナは静かに立ち上がると、卓上の『超精密マナ・シェイバー』の出力を指向性冷却モードへと切り替え、片手で抱えて隔壁へと向かった。
ガチャリ、と重厚な要塞扉が開く。
扉の向こうで炎と汗に塗れていた貴族たちは、溢れ出す至高の冷気と、そこに佇む「地味なFランク令嬢」に向かって身勝手な怒号を上げた。
「ハッ! 現れたなFランク! 我がVALKANORの威光の前にそのかき氷機を差し出せ! さもなくば——」
「時間資源の無駄遣いです。3秒で物理退出してください」
「ふざけるな! 喰らえ、VALKANOR特製・火炎——」
貴族が欠陥魔道具のスイッチを押すより早く、ホナがマナ・シェイバーの冷却指向ノズルをカチリとクリックした。
シューーーーーッ!
ノズルから放たれたのは、超微細化された氷点下五十度の「極冷ソルティ・マナ・ミスト」。
だが、ただの冷気ではない。ホナの精密な魔力操作により、ミストは貴族たちが手にしていたVALKANOR製魔道具の過熱した冷却回路へとピンポイントで滑り込んだ。
急激な温度差と水分干渉により、ポンコツ回路が瞬時に熱暴走・短絡を起こす。
「な、なんだ!? 魔道具が逆噴射して——うわあああああっ!?」
自爆した魔道具から放たれた強烈な背後ノックバック(安全ノバック)の衝撃波により、貴族と技術者たちはピンボールのように地下通路を逆走し、地上へ向かって超高速で吹き飛んで行った。
ズドドドドドッ……ドぼぉぉぉん!
「ノイズの物理排除および空間排熱、完了いたしました」
ホナは何事もなかったかのようにパタンと扉を閉め、完璧な密閉空間を取り戻した。
——数分後、地上。
「ひ、ひぃぃぃっ! 出た……出たぞ! 地下要塞の氷の魔女だ!」
「かき氷機のような謎の兵器から放たれた一撃で、我々の高級魔道具が一瞬で爆発させられた……!」
「あそこは近づいてはならん呪われた絶対不可侵領域だぁぁっ!」
ボロボロになって地上へ叩き出された調査隊の悲鳴により、地下要塞の噂はさらに凶悪な伝説として補強され、二度と邪魔者が近づかない完璧な環境が固定されたのだった。
——地下要塞、リビング。
「ホナちゃん、外の音……やんだね? 大丈夫だった?」
「はい、ルミナリア。害虫が排気口に詰まりかけていましたので、綺麗に物理デプロイしておきました」
ホナはソファーへ戻ると、何事もなかったかのように冷えたスプーンを手に取る。
「さあルミナリア、静けさが戻りました。かき氷が溶けてしまう前に、完璧な休日の続きを楽しみましょう」
「うん! やっぱりホナちゃんのかき氷は世界一美味しいよ!」
「ふふ、光栄です」
極冷の部屋で微笑み合う二人。
外の猛暑と愚かな大騒ぎを完全にシャットアウトし、Fランク令嬢の完璧でゆるふわな夏休みは、今日も平和に過ぎていくのだった。
(第15話に続く)




