第13話:真夏の地下要塞DIYと、完璧すぎる冷感ミストデプロイ
夏休みも中盤戦。魔法学園の地上階は、連日連夜の酷暑によって完全に機能不全へと陥っていた。
「ひ、ひぃぃぃっ! まただ! またYARENDEZ傘下、VALKANORブランドの『極冷ファン付き・高級魔法扇風機』が火花を散らして沈黙したぞ!」
「あ、ありえませんわ! 一台あたり金貨五十枚もした最新型ですのよ!? 壊れるのが早すぎますわ!」
学園の回廊では、ブランドのネームバリューだけに騙されて高級魔道具を買い漁った貴族たちが、汗だくになりながら悲鳴を上げていた。
VALKANOR製の冷房機器は、内蔵された魔力変換回路の密度が無駄に高すぎ、熱を外に逃がす冷却機構がゼロというポンコツ仕様。稼働させればさせるほど機器自体が発熱し、最終的には自爆するという欠陥品ばかりだったのである。
そんな地上階の阿鼻叫喚など、どこ吹く風。
——旧校舎の深層、ホナの地下要塞。
「ふぅ……。やっぱり、暑い日のDIY(日曜大工)の後は、二度冷やしした『ソルティ・カザフ(塩チョコ)』に限りますね」
「うん、美味しい! 口の中で塩気とチョコの甘さがひんやり広がって……生き返る心地だよ、ホナちゃん」
極冷空間(室温22度固定)に保たれたリビングで、ホナとルミナリアは冷たいソルティ・カザフを味わいながら、まったりとした時間を過ごしていた。
リビングの片隅には、先ほどまでホナが手作業で組み立てていた小さな金属製の円柱ガジェット——『超高周波マナ・ミスト噴射器(ホナ自作モデル)』が静かに鎮座している。
地下深くから汲み上げた清涼な天然地下水を、魔法回路で微細な粒子に分解し、部屋全体に極上の冷感ミストとして循環させるための快適化ガジェットであった。
「それにしてもホナちゃん、本当に器用だよね。専門の技術者でも作れないようなすごい冷房器具を、工具一つでサッと作っちゃうなんて」
「いえ、ルミナリア。これは工学の基本に忠実な構造を組んだだけです。地上で出回っているVALKANOR製品が、無駄な装飾と欠陥設計で埋め尽くされているだけに過ぎません」
ホナは表情ひとつ変えず、塩チョコをもう一粒口に含んだ。
(……ルミナリアが『涼しくて快適』と微笑んでくださる。この環境を維持することこそ、私の夏休み時間管理における最優先プロトコルです)
静かで完璧なリラックスタイム。
——しかし、その平和を破るノイズが、突如として地下要塞の入り口から響いた。
『おい! この奥だ! 旧校舎の地下から、尋常ではない冷気と清涼なマナが漏れ出しているぞ!』
『VALKANORの技術長官である我が派閥が調査してやる! おい地味モブ令嬢! 中にいるのは分かっているぞ、その冷房技術を我がYARENDEZに引き渡せ!』
ドンドン! と重厚な要塞隔壁を叩く不躾な音。
やってきたのは、学園内の冷房全滅に焦ったVALKANORのポンコツ技術者と、それに金を出していたイキり貴族の調査隊だった。彼らはホナが地下要塞に引きこもって快適に過ごしていることを嗅ぎつけ、その技術を力ずくで強奪しにやってきたのだ。
「ひゃいっ!?」
「……チッ」
思わず体を震わせた先輩に対し、ホナは目にも止まらぬ素早さで舌打ちを殺すと、無表情のまま冷徹なスイッチを入れた。
(……ルミナリアとの尊い歓談を阻害するノイズ。即座にゴミ分別処理を行います)
「少々失礼いたします。外部ダクトの異物除去を行ってまいります」
「えっ? 異物……?」
ホナは静かに立ち上がると、先ほど完成したばかりの小型ガジェット『超高周波マナ・ミスト噴射器』を片手に持ち、要塞の隔壁へと向かった。
ガチャリ、と重厚な扉が開く。
扉の向こうにいた貴族とVALKANORの技術者たちは、溢れ出す圧倒的な至高の冷気と、そこに佇む「地味なFランク令嬢」に勝ち誇った笑みを向けた。
「ハッ! 現れたなFランク! お前のような地味モブがこんな快適な環境を独占するなど不敬である! その手に持っている冷房ガジェットを渡せば、派閥の末席に——」
「雑音の処理を開始します」
ホナは貴族の言葉を遮り、手に持った噴射器のスイッチをカチリと押した。
シューーーーーッ!
噴射器から放たれたのは、超微細化された氷点下のマナ・ミスト。
だが、ただのミストではない。ホナの精密な魔力操作により、ミスト粒子は一瞬で調査隊が身に着けていた「VALKANOR製・高額魔道具(冷房服や防具)」の隙間へと滑り込んだ。
「な、なんだこの霧は!? 冷たい……いや、冷たすぎる!? ひぃぃっ、服の中のVALKANOR製回路が塩分と冷却でショートして——!」
バチバチバチッ! ドカンッ!
欠陥だらけのVALKANOR製魔道具が、ホナの冷感ミストの水分と魔力干渉を受けて次々と熱暴走・逆噴射(安全ノバック)を起こした。
「うわあああああっ!? 服が爆ぜる! 凍える! 吹き飛ぶぅぅっ!?」
自爆した魔道具の強烈な推進力とノバック衝撃波により、貴族と技術者たちはピンボールのように地下通路を逆走し、地上へ向かって超高速で吹き飛んで行った。
ズドドドドドッ……ドぼぉぉぉん!
「排熱およびノイズの物理排出、完了いたしました」
ホナは静かに噴射器を抱え直し、パタンと扉を閉めて完璧な密閉空間を取り戻した。
——数分後、地上。
「ひ、ひぃぃぃっ! あそこはダメだ! Fランクの地味令嬢の姿をした『古代氷魔獣の化身』が棲みついている!」
「手にした謎の白い筒から放たれる一撃で、我々の最高級魔道具が一瞬で自爆させられた……!」
「立ち入り禁止だ! あそこは触れてはならん極冷の魔境だぁぁっ!」
地上へ叩き出された調査隊の悲鳴と勘違いにより、地下要塞は「絶対に近づいてはならない不可侵の領域」として再び噂が補強され、二度と邪魔者が来ない完璧な環境が固定されたのだった。
——地下要塞、リビング。
「ホナちゃん、外の音……静かになったね?」
「はい、ルミナリア。ダクトに詰まっていた大きなゴミを、綺麗に外部へ物理デプロイしておきました」
ホナは何事もなかったかのようにソファーへ戻り、自作のミスト噴射器を稼働させる。
ソファーの周囲に、心地よい極上のひんやりミストがふわりと広がり、部屋の快適性は120%へと跳ね上がった。
「わぁ……! すごーい、すっごく涼しくて気持ちいいよ、ホナちゃん!」
「ふふ、ルミナリアにご満足いただけて何よりです。さあ、冷えたソルティ・カザフの続きを楽しみましょう」
心地よい冷感ミストと、美味しい塩チョコ。
愚かな貴族たちのバカ騒ぎを完全にシャットアウトし、Fランク令嬢の完璧でゆるふわな夏休みは、今日も平和に過ぎていくのだった。
(第14話に続く)




