28.魔王、飽くなき憎悪
「――――ああああああああッッッ!!!???」
それは、言葉では形容し得ない、世界の崩壊を告げるかのような絶望の絶叫だった。
ほんの数秒前まで、気高き威厳をもって階段を下りてきていた魔王アスモデウスであろうシルエット。それが、クズ勇者レオの聖剣によって胸を貫かれ、大理石の床に崩れ落ちた奏の姿を目撃した瞬間、完全に『狂気』へと変貌した。
ドゴォォォーンッッッ!!!
玉座の間、いや、魔王城全体が物理的に跳ね上がったかのような、凄まじい地鳴りが起きた。魔王の全身から噴き出したのは、闇そのものが具現化したかのような、どす黒く、そして恐ろしい熱量を持った魔力の奔流。
それは城の天井を容易く突き破り、遥か天空の雲さえも赤黒く染め上げていく。
「我が光を……! 我が太陽を……! よくも、よくもよくもよくもよくもォォォォッッ!! あの薄汚い害虫どもがァァァァァッッッ!!!」
魔王の両眼が、限界突破した殺意によって、見たこともないほどに紅く燃え盛る。
彼にとって、奏はただの異邦人ではない。スラムの汚い酒場で、健気に、それでいてプロとしての誇りを胸に歌い続けていた、世界で一番尊き『最愛の推し』だったのだ。毎日、遠隔魔術の水晶玉が割れるほど血眼になって見守り、少しでも豊かな暮らしをしてほしいと天文学的な財宝を送り続けていた、生きる糧そのものだった。
その至高の存在が、あろうことか目の前で、人間の身勝手なエゴの生贄として背後から刺し貫かれた。
魔王の脳内の理性の回路は、その瞬間に完全に消し飛んだ。世界への、人類への、この世のすべてに対する飽くなき憎悪と破壊の衝動が、彼の強大すぎる肉体を支配していく。
「許さぬ……! 貴様ら人間も、このクソ忌々しい世界も、細胞の一つに至るまで塵も残さず滅ぼし尽くしてやるッッッ!!!」
空間が、メキメキと音を立てて軋み、割れていく。
魔王が放つ、世界を容易く五回は滅ぼせるほどの凄まじい殺気と絶対的な魔力。それは目に見える波動となって、魔王領からルミナス王国の国境へと向かって、猛スピードで地表を削りながら拡散し始めた。
「ひ、ひぃぃぃっ!? 助けてくれぇっ!!」
転移の魔術スクロールを今まさに発動させようとしていた勇者レオは、魔王から放たれた余波の重圧だけで、全身の骨が軋む音を聞いた。
スクロールを握る手は恐怖で激しく痙攣し、自慢の聖剣はとうに手から滑り落ちて床を転がっている。
城全体が、まるで巨大な生き物が悶絶しているかのように激しく揺れ動く。大理石の壁には蜘蛛の巣のような亀裂が走り、天井からは巨大な岩塊が次々と降り注いでいた。
「バ、バカな……! これが、これが本物の『魔王』の力なのか……!? 我らが今まで戦ってきた幹部どもとは、文字通り神と虫ケラほどの差がある……っ!」




