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27.アイドル、生贄にされる

 胸元から飛び出した、血濡れた聖剣の刃。

 奏の視界が、一瞬にして真っ赤に染まる。肺から激しく空気が漏れていく感覚、凄まじい激痛と、それ以上の『冷たさ』が全身を支配していく。


「あははははっ! 国王様の直命だ! 『もし魔王が手に負えない化身だった場合、無能のお前を呪いの生贄として捧げ、その隙に撤退せよ』ってな! 感謝しろよ、奏。お前の命で、俺様たち救世主が助かるんだからなぁぁぁっ!!」


 レオは狂ったように叫びながら聖剣を引き抜くと、呆然と固まっている聖騎士たちの襟首を掴み、あらかじめ用意していた国宝級の『緊急脱出用・超長距離転移魔術スクロール』をバリバリと引き裂いた。


「魔王! 生贄はそいつだ! 好きなように食い散らかしな!!」


 眩い転移の光が玉座の間を照らし――次の瞬間、クズ勇者たちは、自分たちを最後まで支え続けてくれた奏を置き去りにして、跡形もなく逃亡しようとしていた。耳障りな声が遠くに聞こえ、静寂が再び玉座の間を支配されようとしている。


「ガハッ……、ゴホッ……、ぅ、あ……」


 奏の薄い唇から、ドロリとした鮮紅の血液が溢れ落ち、深紅の絨毯をさらに深く染め上げていく。胸の傷口から、止めどなく溢れ出る命の灯火。視界が急速に狭まり、世界の音が遠ざかっていく。

 奏は、自分の身体が糸の切れた人形のように、冷たい大理石の床へと崩れ落ちていくのを、どこか他人事のように感じていた。


(くっそ痛い、な……。本当に最後まで、最悪なクズどもだったなぁ……)


 床に横たわり、血の海のなかで、奏の意識は混沌の闇へと沈みかけようとしていた。

 国家の理不尽な命令に従わされ、奴隷のように扱われ、家事系スキルで彼らの命を繋ぎ、最後は功名心に目が眩んだ勇者たちの手によって、背後から心臓を貫かれる。これ以上ないほどに理不尽で、救いのない、残酷なバッドエンド。

 しかし、薄れゆく視界のなかで、奏は聞いた。


「――あぁ、う、嘘だ!」


 それは、先ほどまでの冷酷な地鳴りのような声ではなかった。

 まるで、世界で一番大切な宝物を、目の前で無残に壊されたかのような――この世の終わりを迎えたかのような、絶望と、狂気的なまでの『激昂』に満ちた、一人の男の悲痛な叫び声。

 地響きを立てて、何かがこちらへ猛スピードで駆けつけてくる気配がする。

 床に沈む奏の首元で、衣服の奥に隠されていた、古竜ブランから貰った『宝玉のネックレス』が、主の命の危機を察知して、ドクン、ドクン……と、不気味なほどに激しい鼓動を打ち始めていた。

 激しい足音がすぐ耳元で止まり、血の海のなかに倒れる奏の身体を、大きな、けれど震える両腕が、壊れ物を扱うように優しく抱き上げる。


(……だ、れ、ですか?)


 奏は、もうその問いを発するだけの力も残されていなかった。

 口から最後の一滴の血を流し、異世界の可憐な歌姫は、静かに、その美しい瞳を閉じるのだった。大いなる破滅と、最高に狂った『真のステージ』の幕が上がる直前、劇的なる悲劇の幕引きとして。

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