25.アイドル、魔王城へ
世界の最果て、天空を衝くように聳え立つ黒鉄の城。
吹き荒れる紫煙と不吉な雷鳴が轟くなか、ルミナス王国が誇る『自称・天才勇者パーティ』は、ついに魔王城の最深部、重厚なる『玉座の間』の巨大な扉の前に立っていた。
「うぇーい! ついにここまで来たぜ! 待ってろよ、魔王。俺様の聖剣のサビにして、この世界の富も名声も全部俺様のものにしてやるんだ!」
道中の過酷な旅路を、すべて奏の超人的な家事スキルと尻拭いによってノーダメージで切り抜けてきた勇者レオは、もはや自分が無敵の神にでもなったかのように傲慢に笑い狂っていた。
「左様! 我ら一騎当千の英雄を前に、魔王など恐るるに足りん! おい、無能! さっさと扉を開けろ! 貴様のような日陰者が、歴史的瞬間の特等席に立ち会えることを神に感謝するのだな!」
聖騎士が奏の背中を乱暴に小突き、巨大な黒鉄の扉を押させる。
奏は、背負わされた重いリュックの重みにも、背後からの理不尽な罵倒にも、一切表情を変えなかった。完璧に張り付いた、美しくも冷徹な『営業スマイル』。その襟元には、古竜ブランから贈られた『宝玉のネックレス』が、衣服の隙間から静かに鈍い光を放っている。
(本当、この人たちは最後までおめでたいね。僕がコンディションを完璧に整えてあげてたから進んで来られただけなのに、自分の実力だと勘違いしてる。でも、これでようやく終わりだ。この最悪な巡業の、最後のステージがね)
ギィィィィ……と、不気味な重低音を響かせて、玉座の間の扉がゆっくりと左右に開かれた。
内部は、恐ろしいほどの静寂に包まれていた。果てしなく続く高い天井、大理石の床に敷かれた深紅の絨毯。そしてその最奥、何十段もの階段を上った先にある巨大な黒の玉座に――それは、鎮座していた。
逆光と、立ち込める濃厚な魔力の霧によって、その姿は完全なるシルエットとしてしか視認できない。しかし、その頭頂から伸びる禍々しくも美しい二本の角、そして闇のなかで妖しく、血のように赤く爛々と輝く一対の双眸だけが、強烈な存在感を放ってこちらを見下ろしていた。
「――来たか、ルミナス王国の害虫ども」
地鳴りのような、低く、そして背筋が凍りつくほどに冷徹な声が、広大な玉座の間に響き渡った。
その瞬間、玉座の間全体の空気が、物理的な『質量』を持って一変した。
――ドサァァァァァァッッッ!!!
「なに!?」
あまりにも圧倒的、あまりにも絶対的な、世界そのものを圧殺するかのような絶望的な魔力の波動。それが津波のように押し寄せた瞬間、さっきまで威張り散らしていた勇者レオは、悲鳴すら上げられずにその場に激しく膝を突いた。
「が、あ、はっ……!? な、なんだ、これ……はっ! 身体が、動か、ない……っ!?」




