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23.アイドル、古龍を癒す

「可哀想に。なんでこんな……」


 奏の口から、無意識にその言葉が零れ落ちた。

 恐怖よりも先に、胸を締め付けるような強烈な同情と悲しみが勝った。この竜は、何も悪いことはしていない。ただ、ここで静かに眠っていただけなのに。あのクズ勇者たちが、自身のくだらない名誉のためだけに、その尊い命を弄び、無残に引き裂いたのだ。


「ごめんなさい。僕が、あの人たちを止められなかったから……」


 奏は、振り下ろされようとしていた古竜の巨大な前足に向かって、自ら一歩を踏み出し、その血濡れた太い四肢へと、そっと両腕を回して抱きついた。

 死を覚悟したわけではない。ただ、あまりにも不甲斐ない自分への悔しさと、目の前で消えかけようとしている尊い命への祈りが、彼を突き動かしていた。

 ぽろぽろと、奏の美しい瞳から、大粒の涙が溢れ出す。その涙が、血に汚れた古竜の鱗へと、静かに、一滴、零れ落ちた――その瞬間だった。

 暗黒の洞窟の底を、現代日本のスタジアムの演出をも遥かに凌駕する、圧倒的に清廉な『白銀の光』が優しく包み込んだ。


「――えっ!?」


 奏は驚いて目を見開いた。

 彼の流した涙が触れた箇所から、まるで波紋が広がるように、温かく強大な魔力の波動が古竜の巨体全体へと駆け巡っていく。

 それは、ルミナス王国の最高位の司祭でも不可能な、神の領域の治癒の奇跡。

 ――異世界で覚醒していた、彼のもう一つの隠されたステータス。【隠し聖属性スキル:純真の涙】。

 汚れなき魂を持つ彼が、心から他者のために流した涙は、すべての状態異常を解除し、肉体の損傷を完全に復元する究極の聖なる奇跡を引き起こすのだ。

 シュウウウ……と、心地よい音を立てて、古竜の脳天の大傷がみるみるうちに塞がっていく。溢れ出ていた鮮血は綺麗な光の粒子となって霧散し、引き裂かれていた純白の鱗が、以前よりもさらに強固で美しい輝きを放ちながら、一枚、また一枚と完全に再生していった。

 苦しげだった古竜の呼吸が、劇的に穏やかなものへと変わる。

 光が収まったとき、そこには、傷一つない完璧な神々しさを取り戻した、伝説の古竜が凛然と佇んでいた。


「グルルル……」


 古竜は、自身の身体に起きた奇跡に驚愕したように身震いすると、足元にいる小さなメイド服の奏へと、その巨大な顔をゆっくりと近づけた。

 奏はゴクリと唾を飲み込んだが、不思議と、もうそこには一切の殺気はなかった。古竜は、奏の頬を、自身の大きな鼻先で、まるで甘えるようにそっと、優しく擦り寄せたのだ。


『――我が絶望の淵を救いし、尊き異界の御子よ』

「えっ! 何!? 頭の中で声がする!」

『フフッ。今、我がそなたの頭の中に念話で問いかけている』


 奏の頭の中に、直接、威厳に満ちながらも深く澄んだ声が響いてきた。どうやら古竜の念話みたいだ。

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