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20.アイドル、完璧にこなす

 奏の動きは、もはや人間の領域を遥かに超越していた。

 トランクから取り出した錆びた鉄鍋と、支給された質の悪い硬い干し肉、そして道中で密かに摘んでおいた野生のハーブ。普通に調理すれば、泥を噛むように不味くなるはずの配給品が、奏の神技的な包丁捌きと火加減によって、みるみるうちに極上の素材へと変貌していく。

 干し肉は繊維を完全に断ち切られ、ハーブによって臭みを完全に消された。数分後には、岩場全体に、王宮の宮廷料理さえも霞むほどの、濃厚で芳醇なビーフシチューの香りが立ち込める。

 料理の煮込み時間を待つ間、奏は休むことなく、レオたちが脱ぎ散らかした防具やローブの洗濯に取り掛かった。


「よし、次は装備の手入れをしようかな」


 【家事系スキル】は、ただの冷水でも劇的な洗浄力を発揮する。ゴシゴシと力任せに洗うのではなく、布地の繊維を痛めない完璧な力加減で、泥汚れや魔物の返り血を一瞬にして浮き上がらせていく。仕上げに、前世の衣装管理で培った知識を総動員し、シワ一つない状態に叩き伸ばして、魔導の火で一気に乾燥させる。


「――レオ様、皆様。お食事の準備と、装備の手入れが完了いたしました」


 天幕から気怠げに出てきた勇者パーティは、目の前に並べられた光景に、一瞬にして言葉を失った。

 岩場の上とは思えないほど美しくセッティングされた即席の食卓。そこに盛られた、湯気を立てる絶品のシチュー。そして、まるで新品同様の輝きを取り戻し、型崩れ一つしていない自分たちの装備。


「な、なんだこれは! あんな不味そうな干し肉が、なんでこんなに柔らかくて美味いわけ……んっ!?」

「バ、バカな。私のローブの魔力回路が、洗濯されただけのはずなのに、以前より効率的に循環しているだと!? どんな高等魔術を使ったんだ、貴様!」


 驚愕し、貪るように料理を口に運ぶ厨二病たちを、奏は淑やかに微笑みながら見つめていた。


「いえ、ただの丁寧な『家事』でございます。プロとして、お仕えする方のコンディションを整えるのは当然の義務ですから」


(まぁ、本当はただ、僕の完璧な仕事に依存させて、僕がいないと何もできない身体にしてやろうっていう、芸能界お馴染みの『悪質なマネジメント技術』なんだけどね。ふふ、せいぜい僕の家事なしでは生きられない身体になりなよ、クズ勇者くんたち)


 心の奥で真っ黒な小悪魔スマイルを浮かべながら、奏は彼らの尻拭いを完璧にこなしていくのだった。

 勇者たちが満腹になって天幕へ戻り、高鼾をかき始めた深夜。

 奏は一人、焚き火の番をしながら、明日のルートの確認と、衣装の最終チェックを行っていた。パチパチと爆ぜる炎の音が、静寂に包まれた荒野に響くその時だった。


「……え?」

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