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19.アイドル、呆れる

 世界の最果て、魔王領へと続く荒涼とした街道を、一台の豪華な馬車が砂煙を上げて進んでいた。

 ルミナス王国が誇る、最高級の魔導馬車。その快適な車内にふんぞり返っているのは、国中の期待を一身に背負い、完全に厨二病をこじらせて「俺つえー!」状態に突入している勇者レオと、その一味だった。


「おい、奏! 俺様の聖鎧イージス、光沢が足りないんだけど! もっとこう、俺様の放つ聖なるオーラを反射して、見る者すべてを平伏させるくらいの神々しさで磨き上げられないのか!」


 馬車のふかふかのシートに寝そべり、高級な葡萄を口に放り込みながら、勇者レオが我が儘極まりない声を上げる。


「レオ様、お怒りはごもっともです。おい、無能! 魔術師である私のこの最高級の絹のローブもだ。裾にわずかでも泥がついていれば、私の編み出す古代魔術の構成に狂いが生じる。貴様のような日陰者が、我ら選ばれし『天才パーティ』の足を引っ張るなど、万死に値すると知れ」


 眼鏡を大仰に指先で押し上げながら、美形の魔術師が冷酷に吐き捨てる。

 彼ら勇者パーティは、お世辞にも『世界の救世主』と呼べるような高潔な集団ではなかった。国から一歩外に出た瞬間から『仮面』を脱ぎ捨てた。自己中心的で、我が儘放題。何か気に入らないことがあれば、すべてを奴隷のように同行させている奏のせいにして怒鳴り散らす、ただの未熟な厨二病集団だった。

 馬車のすぐ後ろを、大人二人分はあろうかという巨大なトランクを括り付けた荷馬で追従させられている奏は、彼らの理不尽な怒号を全身に浴びながらも、顔に張り付いたような完璧な『営業スマイル』を一切崩さなかった。重い荷物を持たせている荷馬に対しても敬意の一文字もない。奏同様、完全に『道具』としか見ていない。


(はいはい、こういう『自分が世界の中心だと勘違いしてるタイプ』ね。前世の芸能界にもゴロゴロいたなぁ……。大御所の威を借る我が儘な二世タレントとか、一発当てて天狗になった新人バンドのボーカルとかさ……。自分がどれだけイタい子なのか、分かんないのかなぁ?)


 奏にとって、彼らの理不尽な態度は、恐怖の対象ではなく、単に『前世で嫌というほどあしらってきた、癖の強い業界人』のバリエーションの一つに過ぎなかった。

 プロのアイドルとして培った強靭なメンタルと、人間の醜いエゴを何年もいなしてきた『あしらいの技術』。それが、この地獄のような環境において、奏の最大の武器となっていた。

 夕暮れ時、街道沿いの荒涼とした岩場に馬車が止まり、野営の準備が始まった。


「ふぅ、今日も疲れたぁ。おい、奏! 俺様が天幕で仮眠を取るまでに、最高級のディナーと、汗を拭くための温かい蒸しタオルを用意しろ! 遅れたらスラムの孤児院を更地にするからな!」

「はい、分かりました」


 レオたちはそう言い捨てると、自分たちは一切手を動かすことなく、豪華な天幕の中へと引っ込んでしまった。

 一人残された奏は、マントを脱ぎ捨て、白のフリルが鮮やかな黒のメイド服の袖をまくり上げた。


「よし、ここからが僕の『ステージ』だね。プロの仕事、見せてあげるよ」

 ――能力解放。【家事系スキル:10】。

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