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18.アイドル、旅立つ

 かつて日本にいた頃、芸能界の汚い大人たちをたくさん見てきた。実績を横取りしようとするプロデューサー、都合の良い時だけ擦り寄ってくるスポンサー。だが、このルミナス王国の王権と勇者たちは、それらを遥かに凌駕する醜悪さだった。

 戦えないからとゴミのように捨て、自分たちの都合で監視し、いざ利用価値があると分かれば、大切な人たちの命を人質にして、一番過酷な戦場へと引きずり出す。

 レオたち勇者パーティは、国中の人々から『正義の味方』『救世主』と崇め奉られている。だが、その足元にあるのは、このような弱者への徹底的な搾取と脅迫なのだ。こんな連中が世界を救う勇者だと名乗っている事実に、吐き気すら覚える。


(こんなところで負けてたまるか!)


 だが、奏はプロのアイドルだ。

 感情に任せてここで暴れたところで、バーバラや孤児院の子供たちが犠牲になるだけだ。何より、理不尽な状況に直面したときこそ、本物のエンターテイナーは、完璧な『仮面』を被ってステージに立つものだ。


(いいよ。そこまでして僕を利用したいなら、徹底的に付き合ってあげる。でもね……僕をただの無能だと侮ったこと、地獄の底で後悔させてあげるから)


 奏はエプロンのポケットの奥にある、あの魔王からの『ガチ恋レター』にそっと触れた。

『あなたはただそこに存在し、息をし、微笑んでいてくださるだけで良い』と書いてくれた、まだ見ぬ最強のファン。皮肉なことに、自分を召喚した偽りの正義の国よりも、世界を滅ぼすはずの魔王の方が、よっぽど自分のことを正当に、真摯に評価してくれている。


「……分かりました。勇者パーティのお世話係、謹んでお受けいたします」


 奏は、あえてメイド服の裾を美しく広げ、王宮の連中が息を呑むほどに完璧な、気品あふれる『一礼カーテシー』を披露してみせた。


「ククク、聞き分けが良いな。無能なら無能らしく、勇者様の足拭きマットとして精々役に立つが良い」


 国王が満足げに下卑た笑いを漏らす。


「決まりだな! じゃあ、早速、これを持て」


 レオが顎で指図すると、聖騎士たちが、大人二人でも持ち上げるのが困難なほどの、巨大な鉄製のトランクや野営用具の山を、奏の前にドスンと投げ捨てた。


「私たちの着替えと、予備の武器、それから食料だ。あ、移動中も聖剣の手入れと、私の肩揉みは欠かすなよ? もし荷物を傷つけたり、料理が不味かったりしたら、すぐにスラムの連中の首が飛ぶと思っておけ」

「はい、勇者様。プロとして、完璧なお仕事をさせていただきます」


 奏は顔に張り付いたような、美しくも冷徹な『営業スマイル』を崩さないまま、凄まじい重量の荷物の山を、自身の【家事系スキル:10】の身体能力を使って、一切の無駄のない動きで背負い込んだ。その力強さと淀みのない動作に、周囲の近衛兵たちが一瞬ギョッとした表情を浮かべたが、傲慢な勇者パーティはそれに気づくことすらしない。

 王宮の重々しい防音扉が開かれ、奏は勇者たちの後ろを歩き始めた。

 これから向かうのは、世界の最果て。クズ勇者たちに奴隷のように扱われる、過酷で、理不尽極まる地獄の旅路。

 だが、奏の瞳には、一切の絶望はなかった。

 どんなに劣悪な環境であれ、自分を待っている『ファン』である魔王がいる。そして、自分を不当に搾取したこの国への、最高に華やかな『復讐のステージ』の幕が、今まさに切って落とされたのだと、彼は確信していた。

 メイド服の裾を夜風に揺らしながら、異世界の可憐な歌姫は、クズ勇者たちを乗せた馬車のすぐ後ろを、静かに、そして力強く歩き出し、荷馬の元へ向かった。荷馬を優しく撫で、声かけをした後、荷物を括り付け、狭い空間に跨り、新たなる地獄の旅へと一歩を踏み出すのだった。

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