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16.アイドル、王宮へ

 奏の脳裏に、あの玉座の間で複雑な表情をして自分を見つめていた女子高生の姿がよぎる。そして、自分を勇者だと豪語していた男子高校生の姿も。男の子の名前はレオだったような…自分のことで頭いっぱいで定かではない。

 噂によれば、彼らは国中のバックアップを受けてレベルを上げ、勇者レオに関しては、魔王軍の幹部を討伐したらしい。だが、その華々しい戦果の裏で、なぜ今になって、追放した自分を呼び出すのか。

 差し出された召喚状からは、かつてドームの舞台裏で感じたような、どす黒い『大人のエゴ』と、嫌な予感しか漂ってこなかった。


「……分かりました。行きます」

「あんた、正気かい!?」

「大丈夫だよ、バーバラさん。僕は何も悪いことはしてないし……。それに、プロのアイドルは、どんなに気が乗らない呼び出しでも、決して逃げたりしないから」


 奏はバーバラに向かって、安心させるように小さく微笑んでみせた。

 お守りのようにエプロンのポケットに忍ばせた、あの魔王からの『ガチ恋レター』の感触を確かめる。なぜか、その禍々しい手紙の温もりが、今の奏にとって不思議な心の支えになっていた。

 メイド服の上から旅用のマントを羽織り、奏は静かに酒場を出た。

 待ち受けるのは、自分を裏切った国と、歪んだ欲望が渦巻く王宮。嫌な予感をその胸に抱えながら、奏は再び、あの薄汚いきらびやかさに満ちた王宮へと、重い足を向けざるを得なくなるのだった。


 *


 一度は決別したはずの、壮麗にして薄汚き王宮。

 白銀の鎧を纏った近衛兵たちに前後を挟まれるようにして、奏は再びルミナス王国の玉座の間へと足を踏み入れていた。

 一ヶ月前、自分をゴミのように叩き落としたあの冷酷な空間は、何一つ変わっていなかった。高い天井を支える大理石の円柱、厳かなフレスコ画、そして差し込む冷ややかな太陽の光。しかし、今の奏が身につけているのは、あの輝かしいステージ衣装ではない。スラムの酒場で戦い、働き続けてきた証である、白のフリルがついた黒いメイド服の上から旅用のマントを羽織った姿だった。


「――面を上げよ、異邦人・奏」


 玉座の上から降ってきたのは、相変わらず傲慢さに満ちた国王の声だった。その傍らには、以前よりも格段に贅沢な、ミスリル製の魔力防具や特殊ローブを身に纏った『勇者様』と『聖女様』の二人がいた。

 彼らは傲慢な笑みを浮かべてこちらを見下ろしている。その背後には、彼女のお気に入りだという美形の魔術師や高慢な聖騎士といった、いわゆる『勇者パーティ』の面々が、これみよがしに奏を品定めするように並んでいた。

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