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15.アイドル、呼び出し

 まずは、治安の悪化と疫病の原因になっていた、路地裏に放置された何年分もの生ゴミや泥を完全に撤去するため、スラムの住人たちを高い賃金で雇い、大規模な一斉清掃を行った。奏自身の【家事系スキル:10】の指導のもと、瞬く間にスラムは見違えるほど綺麗で衛生的な街へと生まれ変わっていった。


「すげぇ綺麗になった……。たまには、こういうのも良いな。金も貰えるし」

「でしょ? でも、今だけ綺麗になっても、それを維持しないと。またお給料払うから、一緒にお掃除しようね」

「そんなもん容易い御用だぜ。奏ちゃんが頑張ってるのに、俺らが頑張らないとか恥ずかしいったらありゃしねぇーぜ」


 さらに、資金のもう半分を、スラムの片隅で飢えに苦しんでいた教会の孤児院へと寄付した。


「奏お兄ちゃん、ありがとう!」

「どういたしまして。いっぱい食べて、いっぱい遊ぶんだよ」

「うん! 奏お兄ちゃんみたいな人になりたい!」


 泣いて喜ぶ子供たちのために、毎日新鮮なミルクや栄養のある食事が届けられ、奏が雇った鍛冶師たちによって、壊れかけていた教会の屋根・ボロボロの壁は立派に修復された。


「奏様は、神様が遣わしてくださった本物の聖人だ!」

「王宮のクソどもが召喚したあの我が儘な『聖女』なんかより、奏様の方がよっぽど俺たちの救世主さ!」


 いつしかスラムの住人たちだけでなく、噂を聞き付けた一般居住区の貧しい人々からも、奏は『スラムの聖歌姫』や『名もなき聖人」』などと呼ばれ、絶大な慕われ方をするようになっていった。


「場所なんて関係ない。自分を必要としてくれる人のために歌い、行動する。その信念が、街全体を確実な幸福で満たしていく」


 ――そんな、プロのアイドルとしての無上の充実感を、奏は噛み締めていた。

 しかし、そんな優しく穏やかな新生活の平穏は、あまりにも突然に、冷酷な足音を立てて破られることになる。


「――お前が、あの、異邦人である奏だな」


 ある昼下がり、ピカピカに掃除された酒場の扉を乱暴に押し開けて入ってきたのは、数人の重武装した王宮近衛兵たちだった。彼らは楽しそうに食事をしていたスラムの客たちを剣の柄で追い払うと、カウンターの中にいた奏の前に、一枚の『深紅の紙』を突きつけた。

 それは、金色の王家の紋章が刻印された、絶対の強制力を持つ王宮からの『召喚状』だった。


「国王陛下および聖女様、勇者様からの緊急の出頭命令だ。拒否権はない。即刻、我らと共に王城へ赴いてもらう」

「王城から、召喚状? なんでまた……」

 奏は、突きつけられた深紅の紙をじっと見つめた。

 ひと月前、自分を『戦えない無能』『ゴミ』などと罵り、わずかな銀貨を投げつけて泥濘の底へと叩き落とした、あの冷酷な王宮。今更、何の用があるというのだろうか。


「おい、そこの缶詰野郎ども! うちの給仕に何の用だい! こいつはあんたたちに城を追い出されて、今はうちの大事な看板娘――じゃなくて、看板息子なんだよ!」


 バーバラが包丁を握りしめ、凄まじい威圧感で騎士たちの前に立ちはだかる。しかし、騎士の隊長は冷たい目で彼女を一瞥した。


「元Aランクのバーバラか。貴様であれ、王命に背けば反逆罪だぞ。……おい、異邦人のガキ。貴様がスラムで『魔王の財宝』をばら撒き、不穏な人望を集めているという噂は王宮にも届いている。その金の出所も含め、聖女様直々のお尋ねだ。大人しくついて来い」

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