9.デバッグ開始
さて、何が悪かったのか。
いや、反省するまでもない。いきなり景色が変わり、
見たこともない化け物ウサギが現れれば、誰だってパニックになる。
まず、降り立った日本人(僕)に、
ここが異世界であることを説明するプロセスが必要だ。
ノートに書くか……? いや、前回はノートを読む暇もなく襲われた。
「とにかく、魔物のいない『セーフティエリア』が必要だな。
そこに降り立たないと、チュートリアルすら始まらない」
下手に歩き回ってエリアの外に出て死ぬ可能性も考えなければならない。
あー、もう、面倒くさいな……。
神様っていうのは、こんなに細かいケアまでしなきゃいけないのか。
僕は溜息をつきながら、再びノートを書き換えた。
「……あれ?」
さっきまで神社の帰り道だったはずなのに、
気づくと僕は、不気味な「赤い半透明の球体」の中にいた。
驚いて振り返るが、アスファルトの道はどこにもない。
視界のすべてが、赤い膜に覆われている。
風船の中……という感じでもない。
ふと見ると、左脇に一冊のノートを抱えていた。
「……チートノート?」
中を見ると、一通の手紙が挟まっていた。僕宛てだ。
『やぁ、僕はこの世界の神。君は今、異世界に転移してきたんだ。
とりあえず、この世界で過ごしてみてほしい。
君のために、この特別なノートを用意した。実現したいことを書き込めば、
何でも叶う。ただしこの星限定だから、
「元の世界に帰りたい」なんて願いは無理だけどね。
「理力の塔」の最下層へ行けば、
本当の意味で願いが一つだけ叶うらしいよ。
詳しくはそのノートが知っているから。頑張ってね!』
意味がわからない。だが、どうやら僕は「神」を自称する存在によって、
異世界とやらに放り込まれたらしい。
なるほど、そういうことか……と状況を飲み込もうとした、その時。
――パリン、と音を立てて赤い球体が霧散した。
途端に視界が開ける。
周り一面、見渡す限りの深い森だ。
そして、目の前。
巨大な角の生えたウサギが、ちょこんとお座りして僕を待っていた。
派手な赤い球体が目立っていたせいで、見学に来ていたらしい。
「……っ!」
慌ててノートに目を向けるが、ウサギは待ってくれない。
「待て待て、今読んでるから! 読ませろよ!」
逃げ出そうとしたが、茂みからもう一匹、別のウサギが飛び出してきた。
挟み撃ち。逃げ場はない。
巨大な角が、鋭い一撃を放つ。
「うわあああああああ!」
「神様お願いです、せめて初期装備を……ッ!」
叫びながら飛び起きると、そこは再び神界だった。
ウサギの角に腹を貫かれて死ぬとは。
情けないにもほどがある。
デバッグは、まだまだ難航しそうだった。




