21.バッドエンド、そして……
チーの放った魔法により、神である僕の体質が書き換えられた。
ヤスの両手の間に挟まれた僕の体は、彼が手をパチンと叩くたび、その容積分だけが霧のように消滅していく。
「……やばい、消される……!」
パチン、パチン、パチン――。
「ちょ、やめろ! 待て!」
パチン、パチン、パチン――。
抵抗も虚しく、僕を構成する神の定義が削り取られていく。
「あ、あぁ、ああああああ……っ!」
パチン。
最後に響いた乾いた音と共に、僕の意識は完全に四散した。
ヤスは大きく息を吐き、忌々しげに手を振った。
「……ふぅ、せいせいしたわ。何が『俺Tueee』だ、ふざけやがって。おい、チー、帰るぞ!」
だが、チーの表情はどこまでも無機質だった。
「……私、および私の本体である神界のノートは、もともと神の一部。
神が消滅すれば、私もまたこの世界から抹消されます。
……ご安心を。あなたには既に『帰還魔法』を施してあります。
まもなく地上に戻れるでしょう」
チーの姿が、足元から透け始める。
「それではマスター、ごきげんよう」
「えっ、ちょ、待て……! チー!」
ヤスの叫びも虚しく、彼は光の渦に包まれ、
一人地上へと強制送還されていった。
四散した工の魂は、極小の粒子である『神素』の状態となり、
この星の一部として永い眠りについた。
それから、一〇〇〇年の時が流れる。
魔王ヤスは、一〇〇〇年もの時を生き続けていた。
かつての覇気はなく、ただただ虚無を抱えて生きている。
やりたいことも、すべきこともない。
隣にいたチーもいない。ただ死ぬことすらできない、虚しいだけの千年。
一方、工の星では、名もなき星の民たちの間で「世界を創りし神」という概念が生まれ、
信仰として根付き始めていた。
それは図らずも、バラバラになった工に『神』としての称号を正式に付与することとなった。
霧散し、世界中に散らばっていた工の神素が、信仰の力によって引き寄せられる。
偶然の繋がりが重なり、ようやく小指の爪ほどの「塊」になったとき、
工は奇跡的に意識を取り戻した。
小さな、あまりにも小さな意識。
彼は周囲の無関係な粒子に、必死に『命令』を刻み込んだ。
「……すべての工の神素に告ぐ……理力の塔へ、集え……」
伝言は神素から神素へとリレーされ、自らもまた、
唯一の希望である『理力の塔』へと移動を開始した。
神の再起動が、今、始まった。




