19.ノートの進化
あれは、50年前のことだ。
俺は、間抜けな余所者から「奇妙なノート」と「腕輪」を奪い取った。
『チートノート』――この世界の理を書き換え、
あらゆる知識を授ける摩訶不思議な道具だ。
いちいち質問を書き込んだり、魔法陣を引くなんて手間な作業は、俺の性分じゃねぇ。
だから俺は、ノートに大量の魔石を喰わせ、「確定」のページに複雑な命令を叩き込んだ。
成功だ。
ノートは俺好みの女の姿へと形を変え、魔法陣の中に立っていた。
ノートは「人間」へと進化したのだ。質問すれば声で答え、魔石を与えて命令すれば、どんな願いも実現する。
俺は彼女に『チー』と名付けた。チーは有能な秘書のように、常に俺の傍らに控えている。
毎日、子分たちに魔石をかき集めさせてはチーに捧げる。それだけで、俺たちは無敵の存在になれる。
俺はある日、チーに問うた。「この世界で一番強いのは誰だ?」
チーは抑揚のない声で答える。
「今現在なら、私たちが最強でしょう。ですがこの世界の設定上、
頂点に立つのは『勇者』の称号を持つ者。次点が『魔王』の称号を持つ者です」
「勇者の称号……? どうすればそれが手に入る?」
「勇者は、異世界から現れる者が『俺Tueee』とやらを演じるための特別な称号です。
この世界の住人が得ることはできません」
「なら、魔王はどうだ?」
「魔王は、この世界の住人の中で最強の者が得る称号。
現状のあなたは実質的に魔王ですが、勇者が存在しなければ、
その称号はシステム上の意味をなしません」
「その勇者は、いつ現れる?」
「神が『50年の時を飛ばす』設定を確定させたようです。
現れるのは、今から50年後でしょう」
「……『神』だと? そいつは何者だ」
「この世界を『創造』した者です」
チーからあらゆる情報を引き出した結果、俺は「神」という胸糞の悪い野郎の存在を知った。
どうやらこの世界は、どこの馬の骨とも知れぬ異世界人が「無双」して楽しむために作られた箱庭らしい。
ふざけるな。俺たちの人生は、そいつを気持ちよくさせるための接待用だってのか?
「……分かった。なら、俺たちが正義だ」
俺は決意した。
50年後、ヘラヘラと現れるであろう「勇者」とやらを叩き潰し、
その裏に隠れている「悪の神」の面拝を拝んでやる。




