17.ならず者の進化
本来ならば、冒険者が死んだとき、その所有物も合わせて消滅し、
復活時に再び持ち物として再構成される。
それが工の考える「王道RPG」の基本システムだった。
だが、もし死の直前に「所有物を奪われる」様子を本人が見ていた場合、どうなるのか。
システムは『奪われた=既に本人の所有物ではない』と認識し、
アイテムは消滅せずにその場に残ってしまうのだ。
そして、工が再び世界に降り立つとき、初期装備として「ノート」を持って現れる。
つまり、この世界にノートが二冊に増殖してしまったことを意味していた。
盗賊の下っ端、ヤスは、奪い取った「真っ白な本」を眺めていた。
そして、興味本位で一緒にかっぱらった「腕輪」を腕にはめた――その瞬間。
意味不明な記号の羅列だった本の文字が、グニャリと歪み、読める文字に変わった。
「な、なんだこれ……?」
ヤスは半信半疑で、腕輪をはめたままノートの余白に文字を書いてみた。
彼が書いた文字は、腕輪の機能によって自動的に「日本語」へと変換され、ページに刻まれる。
書き込んだのは、ヤスには適性のないはずの風属性魔法。
だが、ノートが確定した瞬間、ヤスの体内を未知の力が駆け巡った。
試しに手を振れば、鋭い風の刃が岩を切り裂く。
「……っ! 嘘だろ、おい!」
驚愕したヤスは、震える手でノートの冒頭に問いを書き込んだ。
Q:お前は、一体何なんだ?
ノートは、無機質な筆致で回答を返す。
A:『チートノートです。この世界の所有者を「俺Tueee」させるためのノートです』
――世界を管理するはずの神の道具は、最悪の男の手に渡り、その牙を剥き始めていた。




