第18話 朗読会・前編
今日の演技訓練は場所が変更になったと安芸さんから連絡が届いた。
いつもの昭和の森公園ではなく、あすみヶ丘プラザに集合だそうだ。
昭和の森に比べたらプラザは家の近所。
だからなるべく集合時間ギリギリに到着するつもりで向かったのに、予定より10分も早く着いてしまった。
当然安芸さんが来ている様子はない。
仕方なくロビーで動画でも見て時間を潰そうと思っていたら、先に楓歌ちゃんがやって来た。
楓歌ちゃんは私を見つけると、いつものように手を振りながら駆け寄って来る。
「おはよう!」
「おはよう」
「今日雨にならなくて良かったね。昨日まで天気悪い予報だったから心配してたんだ」
「うん。でも曇ってるから洗濯物は夜までに乾かないかも」
「私も家を出てくる時に布団を干してきたからなぁ。下手したら湿度の高い寝床になりそう」
「そうだね。困っちゃうね」
「うん」
「……」
「……」
何となく会話が続かない。
あの日以来、私と楓歌ちゃんの仲は少しだけ気まずくなっていた。
これだけ長い期間、幼馴染をやっていると、たまにはケンカになる事もある。
そうなった時はお互いに頭を冷やして、落ち着いたらどちらも謝るというのが私達の取り決めだった。
その取り決めのおかげでいつもすぐに仲直りしていたので、こんなに気まずいままなんて今までなかったのだ。
しかも今回の場合は原因がケンカではない。
謝ってそれでヨシという問題でもないので、尚のことどうしたらいいのか分からなかった。
この気まずさを発生させたのは何をどう取り繕っても私だ。
そしてなるべく普段通りに接してくれている楓歌ちゃんに勝手に気まずさを感じているのも私だ。
100対0で私が悪いので、何とかしなくてはいけないのも私なのだが、その方法も思いつかなかった。
私の馬鹿。アホ。欲望丸出しスケベ女。
楓歌ちゃんを困らせるなんて幼馴染失格だ。
こんな事になるなら、いつもみたいにダイスチェックをすれば良かった。
絶対に出目が悪くて思いとどまったはずなのに。
「師匠は天気が崩れそうだったから場所を変更したのかな? いつもだったら多少の雨でもやるのにね」
「え? あ、うん。そうだね」
「……」
「……」
こんな具合である。
何だこの中身の無い会話。
いつもならお互いマシンガンを連射するように会話を続けるのに、今はまるで口径の小さいピストルを撃ち合っているだけのようだ。
しかもどこにも命中していないときている。
今までどうやって会話してたんだっけ。
できない事ができるようになっていくのは楽しいのに、できた事ができなくなるのは寂しい。
「お。早いじゃないか」
そんな気まずい空気を壊すように安芸さんがやって来た。
「「おはようございますッ!!」」
「お……おお。おはようございます」
明らかに場にそぐわない勢いの挨拶に安芸さんがたじろぐ。
楓歌ちゃんはともかく、私は普段こんな大きな声で挨拶なんてしないから驚かせてしまったんだろう。
でも安芸さんが早めに来てくれて助かった。
このまま2人きりだと息がつまってしまいそうだった。
「えらい気合いが入ってるな」
「そりゃあもう! そろそろ養成所も中盤戦だから頑張らないと! ね。楓歌ちゃん?」
「う、うん。そうだね。一日たりとも無駄にできないもんね!」
明らかに会話が不自然だ。
安芸さんにもそれが伝わってしまった気はするが、そこについては特に言及はされなかった。
「そうか。やる気があるのはいい事だ。そんなやる気のあるお前達のために、今日から新しい要素を取り入れようと思っている」
「新しい要素ですか?」
「うん。部屋は予約してある。受付を済ますから少し待っていてくれ」
新しい要素を入れた訓練。
わざわざ訓練前に言うなら、それなりに大きな要素なのかもしれない。
楓歌ちゃんとの事もあってあまり調子が良くないので、なるべくお手柔らかにお願いしたいところだ。
受付を終えた安芸さんに連れられて、プラザ3階の会議室へ移動する。
以前使用した講習室同様、会議室も3人で使うには広めの部屋だった。
会議室は中央に向かって”ロ”の字型に机と椅子が並んでいる。
講習室との違いは向かい合って座れるところだろうか。
「今日は和室とか多目的室は空いてなかったんですか? 芝居をするならそっちの方が動きやすくないです?」
「いや。今回はあえて会議室を取った。とりあえず好きな場所に座りな」
何やらスマホを操作している安芸さんに言われて席に座る。
「……ん?」
安芸さんが不思議そうに私を見た。
いつもだったら真っ先に楓歌ちゃんの隣に座る私が、少し離れた場所に座ったからだ。
「お前ら何かあったのか?」
「いえ。何も無いです」
何かあったのかと聞かれて、何も無いですと答えるのは何かがありましたと答えているのと同義だ。
え。そうですか?
何かって何ですか?
ごまかすなら別の言い方はいくらでもあるのに。
ここまで不自然だと、さっきの挨拶と合わせて安芸さんの中での疑念が確信に変わったに違いない。
「……まあ、話したくなったら話せ」
それでもあえてスルーしてくれるみたいだった。
いや。これは本当によくない。
安芸さんが時間を割いて訓練に付き合ってくれているのに、演技以外の部分で迷惑をかけるなんて。
これ以上気を使わせないようにしないと。
「今日の訓練だが、花見からリクエストのあった朗読を行う」
「楓歌ちゃん、安芸さんにそんなお願いしてたんだ?」
「うん。まだ朗読がどういうものか良く分かってないからさ。師匠に教えてもらおうと思って」
養成所のレッスンでつまづいたら安芸さんに相談する。
今までもずっとそうして来たのに、今回はすっかり忘れていた。
それもこれも全部、私の馬鹿な行動のせいで他に頭が回らなかったからだ。
「本来は別の事をやろうと思っていたんだがな。朗読をやるなら室内の方がいいと判断して場所をプラザに変更させてもらった」
「あ! 場所の変更は私がお願いしたからだったんですね。天気全然関係なかった」
そう言いながら楓歌ちゃんは少し顔を赤らめていた。
実は楓歌ちゃんもあまり頭が回っていないのかもしれない。
「花見。養成所で朗読をやった時は動けないのがネックだったんだな?」
「はい。何かをやろうと思うと、セリフに合わせて体が動きそうになりました」
「声の現場では動きを制限されるケースが多い。アフレコ。ナレーション。全く動けなくは無いが、体を使った表現はほぼ封じられる。朗読はそれに慣れるための訓練でもある」
「一切動いちゃダメってわけではないんですね」
「ある程度は許容の範囲だ。しかし動いた事によってノイズを発生させたらNGだな」
「それ養成所で習いました! 【ペーパーノイズ】とか【衣擦れ】ってやつですよね」
「その通り」
収録の際に発生するノイズ。
色んな要因がある中で代表的なのがこのペーパーノイズと衣擦れだ。
台本を持って演技をする際、どうしてもページをまたいだセリフが出てくる。
その場合、ページの最後までセリフを読んだら、セリフの続きを読むためにページをめくらなければいけない。
そのページをめくる音がマイクに乗ってしまうのがペーパーノイズだ。
そしてペーパーノイズと同じくらい起きやすいのが衣擦れ。
これは体を動かす事によって着ている服の擦れる音がマイクに乗ってしまう現象だ。
少し動いたくらいで音なんて鳴らないだろうと思うけれど、実は衣擦れ音は想像以上に鳴っている。
特に収録中の極静かな状況では高確率でマイクが拾ってしまうのだ。
そのため収録がある日はなるべく衣擦れの起きない洋服を選んで着なければいけない。
この前ナレーションを収録した時も、最初の内は衣擦れ音が思いっきり喋りに被っていた。
「ペーパーノイズも衣擦れも対策できる現象だ。現場で新人がノイズを発生させるなんて言語道断。現場に出られるようになる前に必ず対策しておくように」
「はい!」
「と、脅しておいてなんだが、今日はノイズ関係は気にしなくていい。ノイズを気にするあまり演技がおざなりになっても仕方がないからな」
「良かった。演技に集中できるのはありがたいです」
私はまだ演技をする時には頭で色々と考えながらじゃないとできない。
正しく発声するのも、相手の言葉を聞くのも、意識しなければ精度が落ちてしまう。
その上、まだ慣れていないノイズ対策にまで意識を回せるリソースは無かった。
だけどこんな言い訳を続けるのもそろそろ終わりにしないとな。
「それとさっき言った通り、今日はもう一つ新しい要素を追加する」
「げ。新しい要素が加わるなら結局演技に集中できないのか」
「安心しろ。負荷を増やすわけじゃないさ。この前のお前らのエチュードを見て、そろそろいけると判断したんだ」
そう言うと安芸さんは部屋の出入口まで行き、扉を開けて外を覗いた。
「おい。入ってきていいぞ」
そして外にいる誰かに声をかける。
声をかけられた人物は、安芸さんが扉を押さえている間にドカドカと足音を立てて部屋の中に入って来た。
「おはようございます!」
会議室に盛大に響き渡る甘い声。
もうその声だけで誰なのか分かる程だった。
部屋の扉の前。楓歌ちゃんよりも小柄な身長で偉そうにふんぞり返っているのは、あのワガママお姫様の三春恵輝ちゃんだ。
「ケーキちゃん!」
「ミルキーちゃん!」
「だからどっちかに統一しなさいよ!」
楓歌ちゃんが席を立ってケーキちゃんの方に駆け寄って行く。
「久しぶりだね。元気してた?」
「見りゃわかんでしょ。元気よ」
「何だ。お前ら顔馴染みだったんだな」
安芸さんが意外そうな顔を浮かべる。
どうやらケーキちゃんは私達のことを話していなかったみたいだ。
「はい。土気サマーフェスティバルの時にケーキちゃんが楓歌ちゃんにつっかかってきたんです」
「感じ悪い言い方やめなさいよね。ところでアンタ誰よ?」
「何で記憶喪失になってるの!? 楓歌ちゃんの幼馴染の七夕小雪だよ!」
「冗談よ。ちゃんと覚えてるっての」
「私は花見楓歌だよ」
「だから覚えてるって言ってるでしょ!?」
ただのボケにもしっかり反応してくれる。
こういうやり取りができるからケーキちゃんは面白い。
同じ攻撃的なタイプでもここが山高さんとの大きな違いだ。
山高さんも多少ユーモアがあれば、あの高圧的な態度もキャラクターとして許容できるのにもったいないな。
「三春も私の教え子だ。そもそも私が土気に戻って来たのはコイツに指導を頼まれたからだ」
「あれ? 汐星先輩に児童劇団のレッスンをお願いされたからじゃないんですか?」
「元々はコイツの指導が最初だった。その後でついでにと児童劇団の指導も頼まれたんだ」
「汐星先輩……」
売れっ子声優さんにお金の発生しないお願いをしまくるのはどうなんだ。
いや。もしかしたらそうやって用事を増やして、なるべく安芸さんを土気にいさせようとしているのかもしれない。
「師匠、聞いて下さいよ。ミルキーちゃん、師匠との訓練時間が減るから私達に声優になるのを諦めろって脅してきたんですよ?」
「ちょっと! それ内緒にしときなさいよ!」
「お前ミルキーって呼ばれてるのか? 天の川と何か関係あったか?」
「知らないですよ。このちびっ子が勝手にそう呼んでるんです」
「安芸さん。気にしないで下さい。いつもの楓歌ちゃんクオリティです。でもケーキちゃんが脅してきたのは本当ですよ。返り討ちにしましたけど。2回も」
「だから最初のをカウントするなっての!」
「三春がそう言い出すだろうと思って、花見と七夕が養成所に入るまでは付きっきりで指導してやったんだけどな」
そう言えばあの時、安芸さんはしばらく用事があると言っていた。
あれはケーキちゃんとの個人レッスンの事を言っていたのか。
「安芸さんはワタシがデビューするまで付き合ってくれると思ってたんですけど?」
「お前なぁ。土日をこの2人とお前のために使ってるんだぞ? それで我慢しろよ」
「私達の訓練じゃない方の日でケーキちゃんと訓練してたんですか?」
「そうだ」
そんな過密スケジュールを送っていたのか。
平日のいくつかを児童劇団。
土日は私達とケーキちゃん。
安芸さんは土気に戻ってからどれだけの人の指導をしてたんだ。
「ついこの前、三春からこっちの訓練に合流させて欲しいと連絡が来たんだ。別の連中とも訓練しているのは話していたからな。私的にもその方が都合が良かった」
「もしかして今回からの新しい要素って……」
「そう。コイツのことだ」
確かにメンバーが増えれば新しい要素だ。
大きい要素ではなくて物理的に小さい要素だったけど。
つまりケーキちゃんは昭和の森公園での勝負で、楓歌ちゃんが出した条件に従ってくれたのか。
こっちから安芸さんにお願いしようと思っていたのにケーキちゃんの方からお願いしてくれるなんて、何だかんだ仲間意識は持ってくれているみたいで嬉しいな。
「じゃあ全員揃ったところで始めるとするか。三春も席につけ」
「はーい」
安芸さんに言われてケーキちゃんも席についた。
わざわざ私と楓歌ちゃんとは違う場所に座ったので3人で向き合う形になる。
「さて。あんた達の実力を見せてもらおうかしら?」
私と楓歌ちゃんを交互に見ながら煽るような表情を浮かべる。
「ミルキーちゃん、それ三下のセリフだよ」
「はあ!? このワタシを三下奴呼ばわりとはいい度胸ね!」
「うるさいぞ三春。少し黙ってろ」
「……ごめんなさい」
「お前の声は人より響くんだから音量に気をつけろ」
「ぐぬぬ。覚えてなさいよ花見楓歌」
「え。私のせいなの?」
それも三下のセリフだよケーキちゃん。
本当に面白いなこの子。
「これは昔、私も使っていた台本だ」
そう言って安芸さんが全員に台本を配ってくれた。
5ページ程度の、そこまで長くない内容の台本だ。
「まずは配役を決める。この台本の登場人物はAとBとC。Aは男。BとCは女だ」
という事は誰かが男役をやる必要がある。
TRPGでは異性のロールもやるけど、ちゃんとした芝居では未経験だ。
別に男性を演じるのに抵抗もないし私がAをやろうかな。
「はい! ワタシがAをやるわ」
「ええ!?」
ケーキちゃんの提案に私も楓歌ちゃんも驚いてしまった。
この中で飛び抜けて可愛い声のケーキちゃんが男役をやると言い出すとは思ってもみなかったからだ。
ただ男役だとケーキちゃんの声の良さを活かせない気がするのだけどいいのだろうか。
「あら。2人とも鳩が豆鉄砲食ったみたいな顔してるわね。安心なさいな。カチンコが鳴ったらそんな不安なんて吹き飛ぶから」
どうやら奇をてらった提案という訳ではなさそうだ。
相応に自信があるらしい。
私も楓歌ちゃんも異論はないので、Aはケーキちゃんがやることに決まった。
「小雪ちゃんはBとCどちらがやりたい?」
「うーん。まだキャラを掴めてないからどちらでもいいよ」
「じゃあ私がBをやるよ!」
「オッケー。じゃあ私がCね」
これで配役が決まった。
A役、ケーキちゃん。
B役、楓歌ちゃん。
そしてC役が私だ。
「配役が決まったなら台本を読み込む時間を儲けよう。そうだな。20分あれば十分か。それまでに分からない漢字は調べて読み仮名をふっておけよ」
「安芸さん。登場人物の名前はどうしますか?」
「下手に名前をつけると覚えるのが面倒だ。今回は本人の名前で呼び合う事とする」
「分かりました」
20分あればそれなりに読み込めるし、少し練習もできそうだ。
蜘蛛の糸もこれくらいの時間は欲しかったな。
台本の表紙に書かれたタイトルは【さようなら】。
最初のページを見ると簡単なキャラクター設定が書かれていた。
【A】
男性。Bとは恋人関係にあるが相手への熱は冷めている。
Bの会社の同僚であるCに対して心が移りつつある。
【B】
女性。Aとは恋人関係。長年思い続けてきたAとようやく結ばれた。
自分に対するAの気持ちが冷めているのに気づいているが、関係を続けたい。
【C】
女性。Bの会社の同僚。同じ時期に入社して仲良くやっている。
Aの気持ちが自分に向いている事に気づいている。
Bとの友情を壊したくないのでAからの誘いをうまくかわしている。
設定からすでに修羅場だ……。
そう言えば、声優について調べている時に見つけた練習用のサンプル台本も男女関係に関するものだった。
こういうドロドロした内容の方が演技を学びやすいんだろうか。
内容としては、Aが仕事帰りのBを迎えに行くのを口実にCに接近。
Cを何とか口説こうとしているところにBが現れて現場を目撃されてしまう。
というよくある展開だ。
よくある展開ならば、この台本は恐らく物語を見せたいのではないと思う。
それよりもそれぞれの登場人物の感情をどれだけ表現できるかという点に重きを置かれている気がする。
そうなるとまずやるべきは、台本の中で一番の盛り上がりどころを探す事だ。
そこが登場人物達の感情のピーク地点になる。
全5ページ中の1ページ目は登場人物紹介。
そして内容的にも4ページ目がこの物語の盛り上がり部分だろう。
キャラクターが感情的になる時は必ず段階がある。
怒る時も悲しむ時も、気持ちが少しずつ積み重なっていき、それが我慢の限界を超えると感情が爆発する。
書かれたセリフから登場人物の感情を読み取り、その爆発に至るまでの経緯を整理していくのだ。
これが私の台本の読み込み方だ。
キャラクターの感情の整理に関しては、部活で汐星先輩が教えてくれたやり方だった。
TRPGでラストシーンをカッコよく演出するにはどうしたらいいかを聞いたら、喜びでも怒りでもいいから、キャラクターとして一貫した一つの感情を持ち続けて、それを最初から最後まで積み重ねていくといいよとアドバイスをしてくれた。
それは正にキャラ作りの基本であり極意で、アニメでもドラマでもしっかり作り込まれたキャラクターには必ずその流れがある。
逆にそういうプロセスを辿らずに突然感情を大きく出したりすると、そうしなければいけない都合があるからそうしている様に見えて嘘っぽくなるのだ。
(Cは他の2人に比べて心に余裕がある。最後に自分の感情を吐き出すところも比較的理性的だ。ならこの役はこの物語におけるバランサーなんだろうな)
自分なりにキャラクターの性格と役目を考える。
こういうのがパッと読み取れるのはTRPGをやり続けてきた恩恵だと思う。
蜘蛛の糸はこれができなかったから辛かった。
お釈迦様は感情的にならないからなぁ……。
地獄のカンダタを見て、興奮して叫びながら蜘蛛の糸を垂らすお釈迦様も面白そうではあるけど。
他に気をつけなくてはいけない点は、台本が古いせいでセリフが現代っぽくないところだ。
普段使わないような言い回しもあるから注意しないといけない。
こういうところだけは蜘蛛の糸と共通だ。
「……時間だ」
安芸さんが時計を見ながら読み込み時間の終わりを告げた。
蜘蛛の糸と違って割と細かく役を掘り下げるところまでいけた。
自分なりにやりたい演技プランもある。
後はこれを、どれだけ体を動かさずに声だけで表現できるかだ。
「準備はいいか? キッカケを入れるぞ」
TRPGだろうと芝居だろうと開始前は緊張する。
でもだんだんこの緊張感を楽しめるようになってきた。
楓歌ちゃんも楽しさと緊張が混ぜこぜになった表情をしている。
ケーキちゃんに至っては、何かやる気マンマンの顔をしていた。
この3人なら何ができるのか。
楓歌ちゃんとの気まずい空気もすっかり忘れて、私は芝居の世界に入り込んでいた。




