第17話 告・白・騒・動
幼馴染の楓歌ちゃんは頭が良い。
定期テストではいつも学年上位にいるし、頭の回転が早くて発想が柔軟なのでアイデアも豊富だ。
楓歌ちゃんをよく知る人なら、誰に聞いてもその評価は変わらないだろう。
でも実は成績だけなら私の方が上なのだ。
私はテストで必ず学年10位以内をキープできるようにしている。
なんたって私の隣にはスーパー幼馴染がいるのだ。
テストなんて努力さえすれば必ず結果がついてくるような事はやって当然だ。
それでも頭は楓歌ちゃんの方が良いと断言できる。
では頭の良さの定義とは何か。
それは簡単だ。
いかに自分の欲求を満たすための行動を取れるか。
自分がそうなりたいと思える目標に向かって具体的な計画を立て、それを実行する。
それが出来るのが頭の良い人だ。
例えば人から評価を得たい、チヤホヤされたいと思っているのに、他人を見下すような行動を取るのは目的と相反している。
よく漫画なんかでエリートを気取っているくせに主人公をいじめるキャラクターが出てくるが、あれは頭の悪い最悪の行動だ。
どう計算したって行動の先に自分の目的が結びつかない。
川の向こう岸に渡りたいのに、橋を建てるわけでも、船を用意するわけでもなく、誰か俺を向こう岸に渡せと口を動かしているだけの人が、どうして渡れる日が来ようか。
目的のために何をしなければいけないのか。
それを考え、行動しなければ、この世界では絶対に結果は得られないのだ。
楓歌ちゃんは思い立ったらすぐに行動する。
何が必要か。
何が欠けているのか。
今この瞬間に何ができるのか。
それらを瞬時に整理・選別し、いつかでは無く「今」動く。
だから彼女は頭が良いのだ。
そして私は頭が悪い。
学業の成績だけなら上位なのに、頭の良さの定義で言えば最悪だ。
何故なら私は、自分がそうなりたいと思う目標に向かってほとんど行動できていないからだ。
以前、ホキ美術館で汐星先輩から出された宿題。
【クリスマスに楓歌ちゃんに気持ちを伝える】
私はあの宿題に関して何も手をつけられていなかった。
あれからそれなりの時間が経っているにも関わらず、何一つとして形にできていない。
クリスマス当日にどうするのか。
それまでにどんな準備をすればいいのか。
橋を建てるわけでもなく。
船を用意するわけでもなく。
さりとて口を動かしているわけでもない。
あの日というマスから、1マス足りとも進んでいないのだ。
ダイスを振っていないのだ。
ゴールに辿り着けるはずが無い。
もう一度確認しよう。
私は、頭が悪い。
養成所のレッスンも安芸さんの訓練も無いお休みの日は、たいてい楓歌ちゃんが我が家に遊びに来る。
お昼過ぎに来る日もあれば、午前中から来て我が家で昼食を食べる日もある。
それで言うと今日は後者だった。
早朝のランニングを終えて一度家に戻った楓歌ちゃんは、シャワーだけ浴びてすぐにやって来た。
それから一緒にお昼を食べて、今は私のベッドの上に寝転がっている。
幼馴染にベッドを占領されるくらい全然構わない。
そこが一番リラックスできるなら、ずっとそこにいてくれていい。
だから幼馴染として一言だけ言わせて欲しい。
すぐにえっちな恰好になろうとしないで。
楓歌ちゃんは私の部屋に来るとノータイムで服を脱ぎだす。
元々暑がりだから多少脱ぐのは構わないんだけど、上着を脱ぐだけでは満足できずに、肌着まで脱いで下着姿になろうとする。
下手をすると下着まで剥ぎ取る勢いだ。
それを止めるのが私の役目。
いくら旧知の間柄と言えど、他人の目の前で裸になるのはよろしくない。
何より困るのが、それが当たり前になって私の目の届かないトコロでも脱ぎだす事だ。
それが部室ならまだいい。
私の他にはすでに安芸さんとお付き合いしている汐星先輩しかいないのだから。
これがもし自分のクラスなんかで脱ぎ始めたら大事件だ。
ちゃんと止めてくれる人がいればいいけど、そんな冷静に対応してくれる人がいるかは怪しい。
最悪、悪意を持っている人に唆されて全裸にされてしまうかもしれない。
そうなってからでは遅いのだ。
幼馴染の私がしっかりと、みだりに肌を出してはいけないと教えてあげなければいけない。
今日も何とか下着になるのは止められた。
止められたけど本音を言うと止めたくはない。
好きな子が勝手にあられもない姿になろうとしているのだから黙って見ておきたい。
でも友達なのだからそうもいかないのが辛いところだ。
「小雪ちゃんのお布団って本当いいニオイするねぇ」
そんな事を言いながら私の使っている枕に顔を埋めている。
くそ。くそ。本当にこの無自覚えっち娘は。
人の気も知らないで。
そんなスカートの端から無防備に太ももを晒して。
今すぐ襲いかかってやろうか。
「……ところで楓歌ちゃん」
「んー?」
「声優に関する情報収集は進んでる?」
煩悩を追い払うために、あえて活動の話題を振ることにした。
「うん。毎日やってるよ!」
こちらに体の向きを変えた楓歌ちゃんがビシッと親指を立てる。
声優に関する情報収集は養成所に通う前からずっとやっている事だ。
いま放送されているアニメ作品に出演している数が多いのは誰なのか。
どういう演技をしている人なのか。
その人はどこの事務所に所属しているのか。
そういうデータを集めて、何となくでも声優市場を理解できるように勉強をしているのだ。
「最近の注目株は萩原志帆さんだね。あの癒しボイスがホンワカ系の役にマッチするし、あの声で悪女とかやるとギャップがあって面白いよ」
「前期も今期もめっちゃ出演してるもんね」
やはり声優さんにも旬というものはあるみたいで、ある時期を境にいきなり出演作品が増える人がいる。
業界的に実力が認められ始めたのか、それとも安芸さんが言っていた通り、その人をキャスティングすればファンが作品を見てくれるからなのか。
制作側の真意は知りようもないけど、その人をキャスティングしたくなる理由は絶対にあるはずだ。
「それに滑舌も綺麗だから、ちょこちょこナレーションもやってるみたい」
「むしろあの声はナレーション向きだと思うな。街中で聞こえてきたら絶対耳を傾けちゃうよ」
「どんな仕事をやってるんだろう。気になるな」
「ナレーションだと公式発表されないから調べるのが大変だよね」
これは最近知ったんだけど、声優さんがナレーションを担当している場合、それが誰なのかは ほとんど公表しないらしい。
理由は色々あるみたいで、分かりやすい例だとその人が以前に演じていたキャラクターのイメージがつかないようにするためだそうだ。
有名な声優さんがナレーションをやっていたら、どうしたって声をあてているキャラクターが思い浮かんでしまう。
大人っぽい化粧品のCMなのに、女児アニメのキャラが喋っているように感じてしまったらイメージが台無しだ。
私達みたいに声を聞けば誰々だと分かる特殊な人間と違って、一般の人は声を聞いてもそれが誰かなんてそうそう分からない。
それでも声優さんの名前がドンと出てくれば、何々のキャラクターの声をやっている人だと気づく人もいるだろう。
そうならないための配慮だそうだ。
「やっぱり声優をめざすならナレーションは無視できない世界だし、たくさん勉強しないとね……」
「そうだねぇ。私達はレベルが低すぎたもんね……」
2人して大きなため息をつく。
実は先日、試しに2人でナレーションに挑戦してみたのだ。
ネットにあった原稿を印刷して、収録にはスマホを使った。
初めて読む声優っぽい原稿にテンションが上がった私達はノリノリで収録に臨み、それぞれ数本のナレーション原稿を読んだのだった。
そのあと収録した音声を聞いたわけなのだが、これがもう、あまりの下手さに愕然としてしまった。
文章に振り回されて謎の抑揚がついてしまい、何を伝えたいのかさっぱり分からない。
一番大事な部分をカッコよく決めたつもりだったのに、無感情な声になっているだけ。
上手い下手とか以前に、まるで根本的な何かを理解できていないみたいだった。
実際にやってみるとよく分かる。
ナレーションで声を聞くような人達はとてつもなく上手い。
声の整え方。語尾の処理の仕方。ほんのちょっとのニュアンスの入れ方。凄く繊細だ。
私達みたいに、ただ読んでいるだけじゃない。
鍛え上げられた技術が使われている。
技術があるからこそ文章が目的としている内容が伝わってくるのだ。
養成所に入って演技に触れ、技術を学び、少しはマシな声を出せるようになったと思い込んでいた私達は、その薄っぺらい自信を粉々に打ち砕かれてしまった。
前回のレッスンでやった朗読の難しさも合わさって、いま私達は自分達のレベルの低さを身に染みて感じているところなのだ。
私は挫折慣れしているのでまだマシだけど、今回ばかりはさすがの楓歌ちゃんも少し強めに凹んでいるみたいだった。
「くそー。うまくなりてーい! みんなが腰を抜かすくらいにうまくなりてーい!」
ベッドの上で悶えながら楓歌ちゃんが叫ぶ。
「まさかあそこまで酷いと思わなかったよね」
「セリフより100倍難しいじゃん! 何あれ? ナレーションってどんな感情で読めばいいの?」
「サプリのCMだからって、サプリの気持ちになっても仕方ないもんね」
「ゲームでレベルが足りないとスキルが解放されないけどさ、私達もまだレベルが低すぎてナレーションのスキルが解放されてないんじゃないのかな」
「でもそんな感じはするね。何に気をつければ改善されるのかもさっぱり分からなかったもんね」
「うがぁー! 花見楓歌再びの敗北! 私は、弱いッ!!」
少年漫画に出てきそうなセリフを吐きながら、もう一度枕に顔を埋める楓歌ちゃん。
やっぱり言葉は難しい。
頭の中でこうやりたいというイメージがあってもそれを思い通りに出力できない。
私が期待した物と、実際にお出しされた物に隔たりがありすぎる。
それでもメンタルを削りながら経験を蓄積させて、技術を磨いていくしかないんだろうな。
「……それで楓歌ちゃんは何をやってるの?」
今しがた弱さを嘆いていた幼馴染が、何やらパタパタと手足をばたつかせていた。
「吸った樹液が想像以上に美味しかったゴライアスオオツノハナムグリのマネ」
「何故、いま?」
気分が落ち込んだ時の楓歌ちゃんは突然良く分からない生き物のモノマネを始める。
しかもだいたい私のベッドの上でだ。
ナレーションを収録した日は ”うっかり木から落ちたスローロリス” のマネをしていた。
「小雪ちゃーん。ちょっとだけでいいから私を慰めてぇ」
「はいはい」
そして私に甘えたがるまでが1セットだ。
落ち込んだ楓歌ちゃんを見るのは辛いけど、こうやって甘えてくれるのは嬉しい。
ベッドの上でうんうん唸っている楓歌ちゃんの側まで行って、頭を撫でてあげた。
そのまま手櫛で髪を梳くと、気持ち良さそうに「むぅ」と声をあげて大人しくなる。
綺麗なサラサラの長い髪。
少し揺れるだけでふわっといい匂いがする。
こんな風に髪に触れられるのは私だけの特権だ。
きっとこうやって楓歌ちゃんの髪に触れたいと思っている人は、他にもたくさんいるんだろうな。
……ふと思った。
私は楓歌ちゃんにどこまで許されているんだろう。
こうやって2人で部屋にいて、一緒にベッドに寝転がったり、髪や体にある程度は触れさせてもらえる。
でもそれ以上はどうなんだろう。
例えば体を必要以上に密着させたりはできるんだろうか。
今は甘えたいモードに入っているみたいだし、多少強引なスキンシップも取れるかもしれない。
嫌がられたらすぐにやめよう。
それだけは遵守するつもりで、私はうつぶせに寝転がっている楓歌ちゃんの上に、そっと乗っかってみた。
「ぐぇぇぇ」
体を押しつぶされた楓歌ちゃんが鳴き声をあげる。
ふざけているだけで本気で苦しんでいるわけではなさそうだ。
特に抵抗もされない。
いける。いけるぞこれ。
「楓歌ちゃん。演技の世界に入って結構経ったけど、声優としてやっていけそう?」
何となく重たそうな質問をしてみるも、別にそんなに聞きたい内容でもない。
こんなの、いま乗っているのはあくまでじゃれているだけですよ。
別にたいした事はしていませんよ。というポーズのための会話でしかない。
すでに頭の中は楓歌ちゃんに密着している事実で一杯になっていた。
未だかつてない程に心臓の鼓動が激しくなる。
「んー。思ってた通り難しいし、厳しい世界だよ。でもそれ以上に楽しいから続けたいな」
「そっか。この前のエチュードも楽しかったもんね」
当たり障りのない返答しかできなかった。
今は会話を楽しむ余裕などない。
私の目は楓歌ちゃんの後ろ姿に釘付けだ。
本人はまさか幼馴染が背後でこんなに目を血走らせているなんて思ってもいないだろう。
でもこの調子ならまだ全然いけそうな気がする。
できる事ならこのまま体に手を回して抱きしめたい。
抱きしめて独占してしまいたい。
(……やっちゃいなさいな。七夕小雪)
頭の中に響く悪魔の囁き。
あまりに都合のいい肯定だった。
その囁きに背中を押されるように、私は息を殺して楓歌ちゃんの細い腰に手を回した。
「ちょ! 小雪ちゃん!? あははははははは!」
……つもりだったのに。
日和って腰をくすぐってしまった。
「何? どうしたの? 何でくすぐるの?」
本当は力いっぱい抱きしめたかったのに、寸前で照れてごまかしに走ってしまったのだった。
おい悪魔の囁き!
もっと覚悟をよこせよ!
せっかくのチャンスだったのに!
「あはははははは! こそばゆいってば!」
「落ち込んでる子にはこうだ! こうしてやる!」
ただの暴走行為を、相手を元気づけるための行動に変換させたのはさすが私だ。
伊達にTRPGのゲームマスター経験を積んでいない。
ごまかし方の練度だけは優秀である。
ともあれ楓歌ちゃんにここまでしたのは初めてだ。
今まで一番肌に触れたのは、せいぜいほっぺをモチモチするくらいだった。
初めて触れる華奢な腰。
初めて聞く笑い声。
たったこれだけ勇気を出すだけで、こんなにも初めての経験を得られてしまう。
……ならもっと勇気を出したら?
もっと勇気を出して行動したら?
もうクリスマスまで待たなくてもいいんじゃないだろうか。
今ここで気持ちを伝えてしまえ。
そうしたら、もっと知らない楓歌ちゃんを知ることができる。
「ひー。ひー。小雪ちゃんに酷い目にあわされた」
「酷い目にあわせちゃった」
体の向きを変えてこちらに振り向いた楓歌ちゃんと目が合う。
髪は乱れて、肌着もはだけて胸元まで脱げてしまっている。
そんな楓歌ちゃんの姿を見せられて、欲望を抑えきれるわけがなかった。
「楓歌ちゃん……」
「はー……笑った」
「ねえ。楓歌ちゃん」
「ん? どうしたの小雪ちゃん?」
「私ね。楓歌ちゃんが好きなの」
「……え?」
「友達としてじゃない。もっと深い意味で好きなの」
楓歌ちゃんが目を大きく見開く。
「ずっと前から好きだった。いつも一緒にいてドキドキしてた。小学校も、中学校も、ずっとそばにいられるだけで満足だった。でももう幼馴染なだけじゃ嫌なの。もっと、もっと深く楓歌ちゃんと繋がりたい」
堰を切ったように言葉が溢れ出した。
楓歌ちゃんを好きになってから、この気持ちが口からこぼれないようにずっと我慢してきたのだ。
知られてはいけない。
知られたら一緒にいられなくなる。
そう思って心の奥底に封じていた言葉が、私の理性を無視してどんどん飛び出してきた。
「楓歌ちゃんを誰にも取られたくない。私だけの楓歌ちゃんでいて欲しい。楓歌ちゃんが私の全てなの。楓歌ちゃんは何を好きになってもいい。声優も、演技も、何でも好きになっていい。だけど楓歌ちゃんの一番大事な人は私であって欲しいの」
次々と溢れ出る愚かな言葉を、楓歌ちゃんはずっと聞いてくれていた。
大きな瞳でじっと見つめながら、黙って聞いてくれていた。
「……楓歌ちゃん。好き。大好き」
静かな部屋に私の乱れた呼吸音だけが聞こえる。
他には何も聞こえない、私と楓歌ちゃんだけの空間。
今まで心の中に溜まっていた言葉を全て出し尽くして、自分の存在が急に薄くなったように感じた。
空気と一体化してしまったのではないかと錯覚するほど体の中が空っぽだった。
私の中には、本当に楓歌ちゃんへの想いしか入っていないんだ。
「……小雪ちゃん。手を離してもらってもいい?」
楓歌ちゃんがまるで子供をあやすように優しく言う。
「……え?」
言われて気づいた。
私はいつの間にか楓歌ちゃんの両腕を掴んでいたらしい。
信じられない。
無意識のうちに逃げられない様にしていたのだ。
「ごめん!」
「ううん。大丈夫」
覆い被さった楓歌ちゃんの上から飛び退いて、ベッドから離れる。
楓歌ちゃんは乱れた服を直して、クシャクシャになった髪を整えた。
「えーっと……」
垂れた前髪を指でいじりながら、楓歌ちゃんが私を見る。
その目はいつもと変わらなかった。
いつもの優しくて、カッコよくて、可愛いらしい幼馴染の目だった。
「まずは、ありがとう」
「へ?」
「小雪ちゃんがそこまで私を好きでいてくれてるとは思ってなかったよ。気持ちの強さと言うか……まさかそういう対象として見てくれてるのにビックリと言いますか……女の子が好きな女の子って本当にいるんだね」
その言葉に全身から血の気が引いた。
女の子が好きな女の子。
七夕小雪は女の子が好き。
だからそれが世界の当たり前だと思っていた。
部活の先輩である汐星先輩も幼馴染の女の子が好きで付き合っている。
当然安芸さんも女の子が好きな女の子なんだろう。
でもたまたま私の周りにいた人がそうであっただけで、普通の女の子は女の子を好きにはならない。
友愛はあっても恋愛にはならない。
「小雪ちゃんのことは大好き。でもそれが小雪ちゃんと同じ好きかは分からないんだ。一緒にいられたら楽しいし、私の一番大事な人は小雪ちゃんで間違いないよ。でもそれが恋愛なのかと言われたら、それは今の私には……分からない」
勝手に楓歌ちゃんも女の子が好きな女の子だと思っていた。
いや。思い込んでいた。
そうならいいと。
そうに違いないと思い込んでいた。
前提条件から間違っていたんだ。
告白してお互いに好きだったら恋人になれる。
汐星先輩と安芸さんみたいに付き合える。
そんな事はない。
だって幼馴染の花見楓歌ちゃんは、女の子を好きにはならない普通の女の子なのだから。
「……ごめんね。そうだよね。ごめんね。ごめん」
何とか絞り出せたのは謝罪の言葉だけだった。
ただただ謝りたかった。
楓歌ちゃんは私を一番大事な友達だと思ってくれていたのに、私がそこからハミ出してしまった。
「困らせちゃったよね。そんなつもりじゃなかったのに。私はただ楓歌ちゃんにいつも笑ってて欲しかっただけなのに。どうして困らせるような事をしちゃったんだろう」
主人公の隣にいるだけのモブが、何を思ったのか主人公とのハッピーエンドを望んでしまった。
自分が一番分かっていたはずなのに。
それは解釈違いだって。
この前安芸さんに私も主人公になれるって言われて、それだけは違うって思ったはずなのに。
「小雪ちゃん。私は困ってないよ。少し驚いただけ」
「ありがとう。優しくしてくれて。でも私は楓歌ちゃんの優しさに甘えちゃった。こんなに仲良くしてくれるなら、もっと求めてもいいかもなんて勘違いしちゃったんだ。本当にごめん」
「謝らないで。こんなに気持ちを伝えてもらって嫌なわけないよ」
その言葉が私の心を慰めてくれた。
だけど慰められれば慰められるほど、強い罪悪感が湧いて来る。
もう私の心は耐えられそうになかった。
これ以上楓歌ちゃんの顔を見ていると泣き出してしまいそうだった。
今すぐにここを離れなきゃ。
「ごめんね。今日はもう帰るね」
「え!?」
「明日また学校で。その時には頭も冷えてるだろうから」
「待って!」
楓歌ちゃんの静止を無視して部屋を出ようと立ち上がる。
「ここ小雪ちゃんの部屋だから!」
…………そうだった。
ここから離れようにも、ここは私の部屋で、楓歌ちゃんがお客さんなのだった。
「んんん! んんんんんんー!」
感情のやり場に困って出てきた唸り声。
もう頭がオーバーヒートして、どうしたらいいか分からない。
「だったら私が帰るよ。私も頭がこんがらがっちゃってるからさ」
「……うん。ごめん」
「だから謝らないでってば。じゃあ小雪ちゃん。また明日学校でね!」
「うん。また明日」
楓歌ちゃんは脱いでいた上着を着て、部屋を出て行った。
玄関のドアを開けて家の外に出て行く音が聞こえる。
再び部屋の中を静寂が支配した。
私は震える足を引きずってベッドの前まで行き、そこからベッドに倒れ込んだ。
そして枕に顔を埋める。
「焦り過ぎた! 焦り過ぎた! どうして欲望のままに先走った私ーーーーーーーッ!!」
さっきまで楓歌ちゃんが顔を埋めていた枕をポカポカと殴りながら、力の限り叫んだ。
やらかしてしまった。
取り返しのつかないやらかしをしてしまった。
怖い。勢いって怖い。
怖い。欲って怖い。
もう一度。
もう一度だけ確認しよう。
私は。頭が。悪い。




