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元勇者の墓守は理想の死園を築き上げる  作者: 結城 からく


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第85話 勇者は漆黒の剣を振るう

 国王が両腕で地面を叩き、その弾みで疾走してきた。

 瘴気を手のひらに圧縮すると、全力で叩き付けてくる。


 遠慮のない動きだった。

 僕が覚醒し、魔王の力を十全に使いこなしていると理解したのだ。

 気を抜けば死ぬと分かっている。

 国王は今、全力で僕を殺しにかかっていた。


(だけど、負けるわけにはいかない)


 異形の手が僕に触れようとしていた。

 その軌跡はしっかりと目で追えている。

 強化魔術が反応速度を限界以上に引き上げているからだ。

 常人なら感覚が潰れるほどの増幅だが、僕の場合は再生能力で相殺している。


「ハァッ!」


 国王の一撃を剣で切り裂く。

 漆黒の刃が異形の手を切断し、鮮血が噴き上がった。


「貴様ァッ」


 国王が怯まずにもう一方の手を掲げ、真上から叩き付けてきた。

 向こうも既に人間の速度を超越している。

 音を置き去りにした打撃が死を誘う。


 僕は瘴気を操作して、剣とは別に漆黒の盾を生成した。

 割り込ませるようにして異形の手を防御する。


「くっ……」


 腕がへし折れんばかりの衝撃。

 頭部を狙った一撃は、あまりにも重い。

 防ぐことには成功したものの、両脚が膝まで地面に沈み込んでしまった。

 衝撃を殺し切れず、骨も折れている。


「シァッ!」


 国王が追撃を放とうとした。

 僕は無理な姿勢から強引に刺突を打ち、国王の腹を捉える。

 そのまま剣を横に振るって引き裂いた。

 鮮血に紛れて瘴気が噴き上がって霧散する。


「……ッ!?」


 腹を刺された国王が堪らず飛び退いた。

 痛みというより、瘴気の漏出を感じ取ったからだろう。

 国王の腹から臓腑がこぼれ出すも、その端から再生を始めていた。

 傷口が塞がって異形の部分がさらに広がる。


 切断した手も既に生え変わっていた。

 鱗に覆われた禍々しい手だ。

 切断前よりも人間味が薄れている。

 傷ついて再生するほど変貌しているらしい。

 憎悪に歪んでいることも相まって、もはや国王は元の人相すら失っていた。


(まるで三年前の魔王だ……)


 僕は地面に埋まり込んだ膝を引き抜く。

 折れた骨は完全再生を遂げていた。

 国王と違って異形化も起きていない。


 変わったことはある。

 覚醒した影響か、再生速度も段違いとなっていた。

 異形化することなく、純粋に能力だけが底上げされたらしい。


「これが勇者の特権か」


 呟きながら瘴気の盾を分解し、剣に集中させる。

 それを正眼に構えて国王を注視した。


 距離を取った国王は呼吸が乱れている。

 黒い血を吐きながら、射殺さんばかりに僕を睨んでいた。


 血走った目が爬虫類のようになり、髪が抜け落ちていく。

 黒ずんだ皮膚が脈動して赤い血を排出していた。

 まるで残る人間性を捨て去るかのように。

 そこにいるのは、一体の醜い魔物であった。


「――――ッ!」


 轟く咆哮。

 かつて国王だった魔物が四足で突進を敢行する。

 地面を抉りながら暴風のような勢いで迫ってくる。


 僕は静かに待ち構えた。

 剣を引いて下ろし、意識を魔物の一挙一動に終始させる。


 左右の爪が振り上がった。

 霞むほどの速度で交差する。

 暴走する瘴気が空気を切り裂きながら降ってくる。


 僕は剣を上げた。

 憎悪の宿る爪を切断すると、流れるようにして踏み込む。

 そこからただ静かに腕を一閃させる。


 ――漆黒の剣が、国王の心臓を断ち切った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前話から引き続いての王道展開。 『死園の墓守』にジョブチェンジした主人公だが、 少なくともこの戦いの間は、紛れも無く『勇者』。 [一言] 続きも楽しみにしています!
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