第80話 勇者は国王の真意を垣間見る
僕は剣を構えて国王と対峙する。
今や彼を守る者はいない。
背後の肉塊はレナ達が対処していた。
既に激戦の音がしてくる。
こちらに介入する余裕はないだろう。
国王は不敵な笑みを止めない。
なぜか身構えずに僕を眺めていた。
一瞬で詰められる間合いだが、その態度はやはり崩れない。
自らの勝利を疑っていないのだ。
本当なら、今すぐにでも斬りかかりたい。
しかしそれは危険だと直感的に理解していた。
冷静になって相手の出方を見た方がいい。
激戦をよそに睨み合いが続く。
それを破ったのは国王であった。
暫し沈黙の末、嘆息した彼は静かに呟く。
「魔女の策に救われたな」
レナとボルドを呼び出した転移魔術のことだろう。
予期しない展開だったが、逆転の一手となってくれた。
おかげで不利な戦況を変えることができた。
次いで国王は侮蔑を隠さずに言う。
「勇者よ。貴様は三年前もそうだった」
「何のことだ」
僕が問いかけると、国王は両手を広げた。
「一時の感情に任せた不確かな作戦。いざ窮地に置かれれば、死力を尽くそうとする。なぜその執念を実行前に見せない?」
それらの指摘は的を射たものばかりであった。
僕には何も言い返せない。
心のどこかで同じことを考えているからだ。
国王は表情を変えずに言葉を続ける。
「ほんの少し考えるだけだ。貴様は視野が狭い。あまりに盲目的なのだ」
国王は懐を探る。
そこから取り出したのは短剣だった。
宝玉がはめ込まれたもので、魔術行使の触媒としても機能するだろう。
国王は短剣を手に宣告する。
「死を求める狂人に未来は譲れぬ。ここで散れ」
その構えからは歴戦の凄みを感じられた。
かつての英雄は、未だ牙を研ぎ続けているようだ。
さすがに前線で戦ったのは数十年も前だが、鍛練は欠かしていなかったらしい。
老いた双眸は、猛獣のような気迫を宿している。
対する僕はそのままの姿勢で悪態を吐く。
「言いたい放題だな」
「当然だ。貴様を超える覚悟がある」
そう言って国王は短剣を動かす。
彼はおもむろに右腕の袖を切り裂いた。
布の切れ端が散って地面に落ちる。
「なっ……」
一連の行為を見ていた僕は目を見開いた。
信じ難い光景に思考が停止する。
――露わになった国王の胸部と右腕は、黒く醜い異形と化していた。




