第81話 勇者は国王と問答する
(あれは、まさか)
僕は胸のざわつきを覚える。
強烈な目まいに襲われると共に、呼吸の乱れを自覚した。
それらは一向に治まらない。
動揺する僕を尻目に、国王は異形の腕を掲げる。
「魔王の亡骸を移植した。この身には今、膨大な瘴気と魔力が宿っている」
国王が言い終えると同時に、彼の腕が力を開放した。
空間を歪ませるほどの魔力と瘴気を発散し始める。
今までは意図的に封じていたらしい。
渦巻く力の濁流が、国王を中心に荒れ狂う。
もはや魔族すら凌駕していた。
背後にいる肉塊をも霞むほどの気配である。
「近衛部隊に施した実験を基に行っている。能力の増幅率は比べ物にならない。老いた国王と侮らないことだ」
国王は軽く踏み出すと、一瞬で僕の目の前に現れた。
そして、無事な手で握る短剣を振るってくる。
驚異的な速度による一撃を、僕はなんとか受け流した。
「魔王亡き世界は、人間同士の争いが頻発する。その中で王国は派遣を握らねばならぬ」
異形の腕が突き出されて、僕の肩を掴もうとする。
身を捻って躱しながら、斬撃を叩き込んだ。
刃が異形の腕に食い込み、青い血液を迸らせる。
それでも切断には至らなかった。
内部を循環する高濃度の魔力が、天然の鎧と化しているのだ。
強靭な腕に驚いていると、脇腹に激痛が走る。
「……っ」
見れば短剣が突き刺さっていた。
僕は肘打ちで短剣を破壊すると、その場から飛び退く。
ところが国王は同じ分だけ接近してきた。
徹底的に攻め立ててくるつもりのようだ。
「世界を滅するには巨悪ではない。烏合の衆と化した人間の悪意である」
異形の腕が高速で振るわれる。
鋭利な爪と剣が連続で衝突して火花を散らした。
ともすれば押し切られそうな勢いだ。
国王の身体能力は、僕に劣らない領域にまで強化されていた。
「滅びを食い止めるには再び巨悪が必要なのだ」
防御をくぐり抜けた一撃が頬を抉る。
その奥の歯まで削られたが、僕は臆せず反撃に転じる。
跳ね上げた斬撃が国王の鎖骨辺りを切り裂いた。
衣服に血が滲むも、国王は少しも怯まない。
異形の腕による連撃は加速していく。
「勇者よ。貴様には理解できないだろう。死園などという自己満足だけの地に執着する貴様にはな」
国王の傷は既に再生しつつあった。
いや、あれは元通りではない。
皮膚が少し黒ずんで質感が変わっている。
異形の部位が拡がったのだ。
僕は振り下ろされた爪を弾きながら反論する。
「死園は自己満足なんかじゃない。あれは犠牲になった皆の――」
「それが自己満足なのだ。愚かな狂人めが」
国王が遮るように言い捨てる。
その目には煮えたぎった憎悪が内包されていた。




