第79話 勇者は国王と対峙する
得意げなレナと肉塊を交互に見つめていると、後ろで騒ぐ声がした。
見れば全身鎧を纏う大男がいる。
兜を被っているので人相が確認できないが、その雰囲気と目力には見覚えがあった。
死園を襲撃してきた盗賊団の幹部である大男であり、ネネを肩に載せて挑んできた大剣使い――名前は確かボルドだったか。
方法は不明であるものの、彼もレナと同様にやってきたらしい。
ボルドはネネを抱き起こして、懸命に声をかけていた。
「大丈夫か、ネネ!」
「……うるさいわねぇ、ボルド。あなたの声、ちょっと大きすぎない?」
苦笑するネネは、血を吐きながら応じる。
呪術の反動から持ち直したらしい。
疲労した顔のネネは僕を見やると、レナとボルドを指し示した。
「転移魔術よ。私が瀕死に陥ったら、自動的に発動するように仕込んでおいたの。いざという時の援軍は必要じゃないかしら?」
それを聞いた僕は納得する。
魔術の中には、特定の条件で発動するように仕込む類が存在する。
とても珍しい上に高度な術だが、ネネならば使いこなしても不思議ではなかった。
彼女は万が一に備えた秘策を用意していたのだ。
自らが窮地に陥った時のことを想定し、予めボルドとレナに術のことを話して、いつでも呼び出せるようにしていたのだろう。
転移魔術について僕に話さなかったのは、反対されると考えたからに違いない。
実際、それは正しい。
事前に相談されていれば、僕はきっと賛成できなかった。
ボルドはともかく、レナまでここに来るのは問題だ。
死園を放置することになる。
残された者達が何をするか分からない。
そもそもレナ自身が不確定要素であるがそれは今更だ。
僕はそのことについてレナに確認した。
するとレナは晴れ晴れとした顔で答える。
「誰かに奪われても、また奪い返せばいいじゃないか。心配ならさっさとあの男を倒すといい」
屈託ない表情だった。
レナの瞳は一片の曇りもなく輝いている。
彼女はどうやらこの状況を楽しんでいるらしい。
僕には到底理解できない心境である。
ただ、味方であるのは確かだろう。
そこはありがたかった。
ボルドがネネを背負う横では、エマとマリーが杖を掲げていた。
二人は僕に向けてそれぞれの決意を表明する。
「私達も頑張るよ!」
『任せて』
その一方で肉塊が再び膨張を始めた。
結界を砕きながら調子を取り戻している。
レナは大きくため息を吐いた。
彼女は汗を垂らしながら呟く。
「アレを食い止めるのも一苦労なんだ。早く決断してほしいな」
「……分かった」
僕は間もなく駆け出した。
肉塊の異形は、レナ達に任せることにする。
能力的に僕とは相性が悪い。
魔術が有効みたいだが、僕の使える魔術は限定的で、さらに事前準備が必要だった。
いずれも戦闘中に使えるような代物ではない。
それに、僕には僕の宿敵がいる。
今回はそちらを優先させてもらうことにした。
僕は暴走寸前の肉塊の横を通り過ぎる。
そして、悠然と立つ国王のもとへと赴いた。




