第71話 勇者は奇襲を受ける
僕達は引き続き調査を実施した。
ネネは魔術を使って何事かを解析している。
空間に術式を刻み込み、炙り出した情報を読み取っていた。
時折、ネネは冷めた顔で頷いている。
何かが判明したのだろうか。
術式を見ても僕にはよく分からなかった。
ネネは凄腕の魔術師だ。
純粋な戦闘能力は僕には及ばないものの、禁術を始めとした様々な技能を有している。
今回の解析もその一種だろう。
盗賊団の死を彼女なりに探ろうとしている。
ネネの隣ではエマが真剣に観察していた。
技を盗もうとしているらしい。
彼女は勉強熱心な性格である。
ネネも特に隠している様子もないので、エマならすぐに習得できるのではないだろうか。
一方、マリーは楽しそうに辺りを駆け回っていた。
真面目に調査を行っているようには見えない。
別に僕達も期待はしていないので大丈夫だろう。
それをよそに僕も死体を調べる。
損壊具合からして、まだ何日も経過していない。
どれだけ長くても半日程度だろう。
それでも移動には十分すぎる猶予がある。
実行犯は、既に遠くへ行ってしまったかもしれない。
さらに詳しく調べていると、唐突にマリーが声を上げた。
「あ!」
僕は手を止めて彼女に注目する。
マリーが目を光らせて佇んでいた。
魔力の反応が高まっている。
彼女は左方の茂みを指差した。
「感知魔術が反応したよっ!」
マリーが言い終わる前に、ネネが行動する。
いつもとは考えられない素早さで走る彼女は、茂みに向かって杖を向けた。
渦巻く冷気が茂みへと注ぎ込まれていく。
直後、茂みから矢が飛来する。
術式で構成された魔術の矢だ。
気配は感じられないが、何者かが放ったらしい。
対するネネが小さく詠唱をする。
杖の動きに合わせて突風が吹き抜けて、矢の軌道がずれた。
予め張られていた結界に衝突し、鋭い一撃が結界の表面に亀裂を走らせる。
それなりの威力だが、エマとマリーの防御には敵わなかったようだ。
(奇襲か)
ネネが冷気を送ったが、おそらく死んでいないだろう。
身構えた僕は霧散する魔術の矢を一瞥する。
静寂の中、ネネとエマが杖を構えた。
マリーも笑顔を止めて首を傾げている。
僕達の視線が殺到する中、茂みが揺れ動く。
さらに複数の殺気が発現した。
焦げた草木を退けて現れたのは、黒衣の集団だった。




