第70話 勇者は惨状を見回る
盗賊団の本拠地は、岩場のそばにひっそりと存在していた。
中央の家屋を筆頭にいくつもの建物があったようだ。
本来はそれなりに立派な外観だったろう。
しかし、現在は見る影もない。
何もかもが焼き尽くされていた。
周囲の木々に燃え移っていない点を見ると、魔術で集中的に放火されたらしい。
建物だけを狙われたのだ。
道中にも死体があったが、決して事故などではない。
何者かが襲撃したのである。
(酷い有様だな)
濃密な異臭が鼻腔を突く。
死体の焼けた臭いに、血が混ざっていた。
それらが吐き気を催すような刺激を漂わせている。
僕は嗅ぎ慣れているので平気だが、エマとマリーは揃って顔を顰めていた。
死園でもたくさんの死体を見てきたものの、ここまで酷い状況に出会ったのは初めてだ。
そういった反応になってしまうのも仕方ない。
卒倒しないだけ十分だろう。
二人は布で鼻と口を押さえた。
無言で眉を寄せて、吐かないようにしている。
話しかけても邪魔になるので、僕も触れないようにした。
「随分と派手にやられてるわねー。皆殺しじゃない?」
ネネは瓦礫を足蹴にしながら言う。
ため息を吐く彼女は魔術を行使した。
魔術に促されて発生した強風が悪臭を緩和する。
ネネの後ろ姿は飄々としていた。
ただ、どこか怒りを感じているようにも見える。
ネネなりに盗賊団には思い入れがあったのかもしれない。
それを彼女が語ることはないだろうが。
(しかし、どうするか)
廃墟を前に僕は迷う。
予定が大きく狂ってしまった。
手を組もうとした盗賊団はこの始末で、話し合いどころではない。
想定された戦闘すら起きなかった。
殺し合う盗賊が残っていないのである。
確認できる範囲では死体しかいない。
どこかへ逃げ延びた者もいるかもしれないが、それを確かめる術は持たなかった。
一体、誰がこのようなことをしたのか。
とにかく情報が欲しかった。
僕達は焼け落ちた本拠地を探索する。
出てくるのは死体ばかりで、実行犯に繋がる証拠は見つかりそうになかった。
時折、盗賊団が所持していたと思しき宝物が見つかった。
彼らを殺した者達は金が目当てではないようだ。
これだけの組織を壊滅に追いやったのだから、相当な手練れだろう。
ますます目的が分からなかった。




