第69話 勇者は警戒する
死体は全部で十人分ほどだった。
正確な数は分からない。
いずれも激しく損壊しているせいだ。
明らかに部位が足りていない死体が多かった。
残された頭部の数から、人数を推測するしかない状態だった。
僕は死体を見下ろして唸る。
「これは……」
「盗賊団の子達ね。誰かに殺されたみたい」
ネネは淡々と意見を述べる。
その横顔は冷めていた。
元は同僚であり、怒りや悲しみを覚えるかと思ったが。
何百年も生きているネネは、そういった感情が滅多に揺り動かされないのかもしれない。
ただ、まったく平気というわけでもなさそうだった。
いつも冗談めかした言動ばかりするネネが物静かなのだ。
思う所はあるらしい。
僕は死体をよく観察する。
爪か何かで引き裂かれたような傷があった。
食い荒らされたような痕跡も散見される。
(魔物を使ったのか?)
人間に殺されたとは思えない損壊が目立つ。
ただ、よく見ると武器による傷も紛れていた。
何より魔物は、死体をこのように集めたりはしない。
明らかに人間の介入があった証拠だ。
使役する魔物に襲わせたと考えるのが妥当だろうか。
しかし、ここで一つの疑問が発生する。
誰が何のためにこのようなことをしたのか。
盗賊団はあちこちで恨まれている。
候補を挙げてはきりがないほどだ。
ただし、かなりの規模を誇る組織には違いない。
しかもここは本拠地の近くである。
報復を考えた場合、そう簡単には手出しできないのが実情だった。
それを加味して襲撃したのなら、大した自信と言えよう。
相手はよほどの大組織と思われる。
死体から視線を外したネネは僕に確認する。
「どうするの。一旦引き返す?」
「いや、このまま進む。何が起きたのか確かめた方がいい」
この先に盗賊団の本拠地がある。
付近に死体が落ちている状況で、本拠地がどうなっているか気になる。
ここまで来てしまったのだ。
収穫もなしに戻るつもりはなかった。
僕の判断を聞いたネネは肩をすくめて苦笑する。
彼女は杖を振りながら先頭を進み始めた。
「そう言うと思ったわ。警戒しながら行きましょ」
ネネに従う僕はエマとマリーに指示する。
「感知と防御の魔術だ。奇襲にそなえてくれ」
『任せて』
「うん、分かった!」
二人はすぐに魔術を発動した。
複数の結界が僕達を囲う。
これでひとまずは安心だろう。
よほどのことがない限り、いきなり攻撃を受けることはない。
もちろん慢心は禁物だ。
魔術だけに頼らず、自分の五感も駆使して警戒すべきである。
僕達は獣道を進む。
血の臭いは薄まるどころか濃密となっていた。
道の端々には人体の一部と血痕が残されている。
次第にそれらは調べるのが億劫になるほどの頻度となっていった。
僕達は無視して通過することにした。
やがて盗賊団の本拠地に到着する。
そこには焼け落ちて死体だらけとなった廃墟が待っていた。




