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元勇者の墓守は理想の死園を築き上げる  作者: 結城 からく


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第67話 勇者は諭される

 ネネが僕の頬を突いた。

 続けて抱き付こうとしてきたので、それはしっかりと阻止する。

 不満そうなネネは、煙草を吸いながら話題を変えた。


「それで、何を悩んでいるの? お姉さんに話してみなよー」


「……エマとマリーについてだ」


 僕は先ほどまで悩んでいたことについて話す。

 彼女達の今後についてだ。

 どうせ減るものではない。

 何もかもを素直に打ち明けた。


「このまま協力をさせていいものか迷っている。彼女達の将来に悪影響を及ぼしているかもしれない」


 僕は本音を吐露していく。

 話し終えると、少し気分が楽になっていた。

 悩みすぎていつの間にか鬱屈としていたらしい。

 相手がネネとは言え、我慢せずに話したことで発散されたようだ。


 黙って聞き手に回っていたネネは、口を尖らせて思案する。

 そして演技くさい呆れ顔を見せた。


「深刻そうだと思ったらそんなこと? 拍子抜けしちゃった」


「お前には関係ないだろうが、真面目な話だ」


 僕は勢いづいて反論するも、ネネは臆せずに手を振った。


「悩むこともないでしょ。あの子達の顔を見てごらん」


 そう言ってネネはエマとマリーを指差す。

 二人は幸せそうに眠っていた。

 とても安らかな表情だ。

 十分な食事をとっているためか、髪や肌の艶が良い。

 奴隷時代より格段に健康となっている。


 ネネは遠い目をしていた。

 どこか大人びた横顔だった。


「あんなに幸せそう。奴隷だった時は考えられなかったでしょうね」


 ネネは黙り込み、凛とした目で僕を見やる。

 さらに伸ばした指で顎を軽く待ち上げてきた。


「墓守の勇者」


 ネネはその名を呼ぶ。

 様々な感情の滲む声音であった。

 困惑する僕をよそに彼女は静かに告げる。


「世界は力で決定する。暴力、権力、財力……何だっていい。とにかく優れた力が強いの。よく知っているでしょう?」


 もちろん知っている。

 世界とはそういうものだ。

 僕は暴力を乱用し、犠牲の果てに死園を築き上げた。


「誰かを犠牲に幸福を得られる。全員が幸せになるなんてありえない。だから競争が生まれる」


 ネネの言う通りだ。

 かつて勇者だった僕は、万人が幸せになるような未来を夢見た。

 しかし、結局は現実味のない妄想であった。

 それを叶えられるだけの力は待たなかったのだ。

 誰であろうと不可能だと思う。


「あの子達は暴力を身に付けた。そして、どん底から這い上がる権利を得た。何が悪いのかしら。正当性があると思わない?」


「…………」


 僕は何も言い返せない。

 ネネの言葉が正論だと感じていたからだ。

 彼女の考えは、驚くほどの現実的であり、同時に世界への失望が窺えた。


 レナとは対象的だ。

 彼女は僕の進む未来に熱狂を抱いているようだった。

 ネネはどこか達観して眺めている。

 表面的な印象が似通った二人だが、内面は見事に正反対らしい。


「えいっ」


 身を乗り出したネネが、いきなり僕の額を指で小突いた。

 特に何か魔術を使われたわけではない。

 ただ小突かれただけだ。


 手を下ろしたネネは軽く笑って立ち上がった。


「ちょっと考えすぎよ。もう少し単純な頭になりなさい」


 僕に忠告したネネは、そのまま寝床へ戻っていった。

 すぐに寝息が聞こえてくる。

 残された僕は、彼女の言葉を反芻した。

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