第66話 勇者は魔女と相対する
僕はネネを一瞥すると、小さくため息を洩らした。
そして顔を逸らす。
「放っておいてくれ」
「何言ってるの。仲間でしょ?」
ネネは愉快そうに回り込んで、僕の顔を覗き込んでくる。
彼女はわざとらしく驚いてみせた。
「わお、冷たい反応。すっごく嬉しい」
ネネは笑いながら懐を探る。
取り出したのは一本の煙草だった。
それをくわえた彼女は指を鳴らして着火する。
紫煙を味わいながら、僕の隣に座ってきた。
ネネは無言で煙草を吸い始める。
僕はその姿を眺める。
視線に気付いたネネが、煙草を僕に差し出してきた。
「吸う?」
「いらない」
僕は即答する。
苦笑したネネが紫煙を吹きかけてきた。
「健康を気にしてるの? 不死身のくせにー」
「お前はどうなんだ」
「アタシ? アタシは別にいいの。どうせ身体なんて使い捨てなんだから」
ネネは気楽に答えた。
それを聞いた僕は、言葉の意味に気付く。
煙草を奪って捨てると、批難を込めて指摘する。
「他人の身体を奪う禁術か」
「ご名答。今年で二百五十歳なの。長生きさせてもらってるわ」
どうやらネネは邪悪な魔術師らしかった。
外法に手を染めている。
魔術契約を解除できる時点で察しは付いていたが、想像以上に厄介な存在だ。
ネネは既に人間の寿命を超越している。
他者の肉体を奪い続けることで、半永久的に生き永らえるのだ。
盗賊団に加担していたのも、ほんの気まぐれなのだろう。
退屈凌ぎのようなものだったに違いない。
ネネの本性を知った僕は呟く。
「……魔女か」
「うんうん、よく言われる! 昔は派手に暴れたものだけど、あれは駄目ね。注目を集めすぎると、すぐ殺されそうになっちゃうから」
ネネは遠い目をして、新たな煙草をくわえる。
過去の失敗を振り返っているようだった。
彼女にとって、盗賊団の一員として行動することは“派手に暴れた”に入らないらしいが、この際それはどうでもいい。
ネネの倫理観が歪んでいるのは分かり切っていることだ。
それより後半の言葉である。
注目を集めると殺される。
きっと実体験に基づく発言だろう。
邪悪な魔女として、討伐されそうになったことがあるらしい。
別に珍しい話でもない。
人類を脅かす存在は、だいたいが破滅の運命を辿るものだ。
いつの時代だってそうだった。
悪は決して繁栄しない。
強き正義を前に倒される。
僕の思考を察したのか、ネネは嬉しそうに補足する。
「あ、そうそう。魔王なんて分かりやすい例じゃない? 目立ちすぎたから、勇者に殺されちゃったし」
「…………」
僕は黙ってネネを見る。
ネネは心底から嬉しそうだった。
きっと意味なんて無い言葉なのだろう。
しかし彼女の一言は、僕の胸に重たくのし掛かった。




