第33話 勇者は疑念をぶつける
僕達は森の中の獣道を進んでいく。
現在は村への帰り道だった。
黙々と馬車を曳く僕は、途中でふと背後を見た。
馬車の上にはエマとマリーとレナがいる。
荷物に腰かける彼女達は何やら盛り上がっているようだった。
楽しそうに語るのはレナだ。
内容に意識を向けると、どうやら自身の冒険譚を話しているらしい。
適度に脚色したそれは語る姿は、さながら吟遊詩人のようだった。
マリーは話に夢中になっている。
とても楽しそうにレナの言葉に耳を傾けていた。
こういった娯楽が好きなのだろう。
レナも乗り気で披露している。
一方でエマは気まずげだった。
彼女は冒険譚を満喫できる心境ではない。
この異様な状況に居心地の悪さを覚えているようだ。
彼女の反応が正常だろう。
他の二人が少しずれているのである。
英雄譚に区切りが付いたところで、レナが僕の視線に気付いた。
辺りを見回した彼女は気楽そうに呟く。
「追っ手は撒けたようだね。止まっても大丈夫だよ」
「…………」
僕は無言で馬車を止める。
馬車の脇に飛び降りたレナが、肩に手を置いてきた。
「いやぁ、楽しかったね。あれだけ派手に暴れると清々しい気分になれる。君そう思わないか?」
僕はそれを振り払う。
そして、複雑な心境を以てレナを追及した。
「どういうことか、説明してくれ」
「何をだい」
「すべてだ。何を考えて王国を裏切り、僕達に同行している? どうして決闘で僕を試したんだ」
手を伸ばした僕は、レナの首に指を添えた。
ほんの少しだけ力を伝えると、五本の指が皮膚に食い込む。
レナは抵抗しない。
飄々とした顔でされるがままだ。
まだ苦しくないだろうが、決して安心できないはずである。
それにも関わらず、彼女は平気そうだった。
僕は奥歯を噛み締めながら告げる。
「返答次第では、ここで殺す」
「おっかないな。そんなに殺気を向けないでくれ」
両手を上げたレナは困った様子で言う。
不意打ちの予兆はない。
彼女は本当に無防備であった。
僕が指に力を込めれば、簡単に首の骨が折れる。
それだというのに欠片の動揺も見られない。
抵抗らしいこともせずに首を掴まれていた。
(何か秘策があるのか?)
あらゆる可能性を考えるも、それらしきものは思い付かない。
再生能力があるとは言え、この状況からでは反撃もままならないだろう。
ではなぜレナは余裕を崩さないのか。
まったく理解不能だった。
故に僕は、彼女の命を奪うことを躊躇していた。
それこそが狙いなのではないかと思ってしまったのだ。
レナの目は、この状況にありながら優位を主張している。
僕は彼女の首を掴んだまま沈黙する。
相当な時間を思考に割いた末、その手を離した。
僕の逡巡を見透かしたレナは片目を閉じて微笑する。
「私は君と手を組みたいんだ。お互いの将来のためにね」




