第32話 勇者は傭兵に踊らされる
レナの魔剣が閃いて、兵士と傭兵の首が飛ぶ。
刃が往復が見事な手際で生首を増やしていった。
血飛沫の中で、彼女は笑っている。
十数人が殺されたところで、残る兵士と傭兵が遅れて反応した。
すなわちレナを敵と認識して、攻撃しようとした。
ところがレナは獣のように俊敏に駆け回る。
彼らの間を縫うように走り、すれ違いざまに斬り殺した。
あまりの速さに誰も追いつけていなかった。
レナの動きも絶妙で、常に誰かの陰に潜んでいる。
同士討ちを狙っているのだろう。
そのせいで兵士と傭兵は攻撃を躊躇ってしまい、余計に劣勢となっている。
際限なく加速するレナは、次々と犠牲者を増やしていた。
(何なんだ……)
僕は呆然とその光景を眺める。
途中、激痛で我に返った。
片目にナイフが刺さったままだった。
僕は遅々とした動きで柄を握って引き抜く。
串刺しになった眼球が飛び出しそうになったので、指で押さえながらナイフを外した。
予想外の展開だった。
レナが味方であるはずの兵士と傭兵を殺している。
まったく意味が分からない。
彼女は金額次第でどんな仕事でも請け負う傭兵だ。
命の危機に晒されれば投げ出すこともあるが、味方陣営に襲いかかるような真似はしない性質と記憶している。
彼女は僕を試していたと言った。
何を考えているのか定かではない。
ただ、ここで棒立ちしている場合ではないのは確かだろう。
僕は馬車で待つエマとマリーのもとへ戻ると、急いで出発の準備をする。
街での物資調達は断念するしかなかった。
予定が色々と狂ってしまった。
もはやそれどころではない。
状況が読めないうちは慎重に動くべきだろう。
ひとまず村へ撤退し、今後の方針を練り直した方がいい。
その時、返り血だらけのレナが馬車に向かって突進してきた。
立ちはだかる僕を跳び越えた彼女は、防御魔術を破壊してエマとマリーの隣に着地する。
(しまった……!)
僕は思わず舌打ちする。
人質に取られたと思ったのだ。
ところがレナは二人に何もしない。
森の方角を指差しながら、彼女は楽しそうに言う。
「さあ、細かい話は後だ。発進してくれるかな」
「くっ……」
僕は逡巡する。
視界の端に、生き残りの兵士と傭兵が迫るのが映った。
選択を迷っている暇はない。
僕は三人を乗せた馬車を曳いて駆け出した。




