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元勇者の墓守は理想の死園を築き上げる  作者: 結城 からく


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第31話 勇者は困惑する

 僕は柄を握る手に力を込める。

 レナの首に刺さった刃が捻られて、傷口が抉れた。

 顔を顰めたレナは口から血を溢れさせる。


「……ッ!」


 レナは仰け反りながら後退した。

 首を刎ねようとする動きから、紙一重で回避してみせる。

 喉の前部が大きく裂けたものの、完全な切断には至らなかった。


(さすがは英雄だ)


 やはり戦いにおける勘が鋭い。

 致命傷を食らいながらも、咄嗟の判断力は鈍っていないようだ。


 よろめいたレナは首の穴を押さえていた。

 傷は徐々に再生して塞がっている。

 彼女は何度か咳き込みながら呻き声を洩らした。


「ア、ッアアァ……」


 血に溺れる音と共に多量に吐血する。

 死に触れるほどの苦しみに抗っているのだ。

 その間も双眸は僕を観察していた。

 魔剣もしっかりと構えている。

 迂闊に間合いへ踏み込めば、手痛い反撃が飛んでくるに違いない。


 半端な距離での睨み合いが続く。

 やがて首の再生を終えたレナは、喉元を撫でながら微笑した。


「あー、あー……うん、大丈夫だね。やっと喋れるようになった」


 そう言ってレナは構えを解くと、魔剣を鞘に収めた。

 こちらを誘い込むための罠に思えるが、そうも見えない。

 彼女は本当に戦意を失っている様子だった。

 突然の行動に僕が困惑する中、レナは血に染まった手を広げて宣言する。


「決闘は中止だ。もう十分に分かった」


 彼女は口元の血を拭いながら語り始める。


「さすが勇者だ。技術は少し落ちたみたいだけど、それを補って余りある力だ。実戦を繰り返せば勘も戻るだろうし、悪くないね」


「何を言っている」


「君を試していたんだ。万が一、落ちぶれていたら切り捨てるつもりだったんだけどね。正直、期待以上だよ」


 レナは自然な笑みを返してきた。

 まるで旧友に向けるようなものだが、そこまで仲良くした覚えはない。

 反応に迷う僕とは対照的に、レナ本人は嬉しそうに述べる。


「失望させないでくれてありがとう。心の底から感謝するよ」


「…………」


 僕は言葉を失った。

 何を言えば分からなかったのだ。

 レナが何を考えているのか、まったく読めない。


 いきなり決闘を提案したかと思えば、それを半端なところで中断させてきた。

 挙句の果てに感謝の言葉を告げてくる。

 いずれも不可解な言動だった。


 様々な予想が脳裏を巡る。

 その末に僕が発したのは、純粋な疑問だった。


「一体、何がしたいんだ」


「今から見せよう」


 嬉々として応じたレナが手を打つ。

 乾いた音が鳴り響くと、僕達を囲っていた結界が解除された。


 すぐさまレナが疾走する。

 しかし彼女の向かう先は僕ではない。

 再び魔剣を引き抜いた彼女は、ざわめく兵士と傭兵に襲いかかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] お疲れ様です。 まさかこういう展開になるとはwww いいですね~♪ 面白い!!
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