第30話 勇者は反撃に転じる
レナが凄まじい速度で直進してくる。
どうやら身体強化の魔術を使っているらしい。
一気に間合いを詰めた彼女は、すくい上げるように魔剣が振るってきた。
僕は残る片腕を斬撃を遮る位置に出す。
魔剣が手のひらの垂直に引き裂き、そのまま前腕の半ばまで食い込んだ。
しかし、それ以上は勢いを失って進まない。
筋肉の引き締めで強引に止めたからだ。
片腕を切り落とされた今、咄嗟に防ぐにはこれしかなかった。
「へぇ」
愉悦するレナがもう一方の剣を突き出す。
切っ先が僕の片膝を貫き、石畳に縫い止めた。
彼女はこちらが再生する不死身だと知っている。
だから徹底的に機動力を落としにかかっていた。
(厄介な相手だ)
僕は無事な片脚を回して蹴りを放つ。
爪先がレナの脇腹にめり込むも、彼女は吐血しながら飛び退いた。
上手く角度をずらすことで、魔剣も引き抜いていく。
距離を取ったレナが咳き込んだ。
肋骨が粉砕したのだろう。
内臓も損傷しているのではないだろうか。
再生するまで動きに支障が出るはずだ。
彼女が仕掛けてくる前に、僕は切断されていた腕を拾う。
断面同士を密着させるとすぐに繋がった。
指も不自由なく動かせるようになる。
次に片脚を一瞥し、刺さったままの剣を引き抜いた。
さすがのレナも、二本の剣を戻す余裕はなかったのだ。
僕は引き抜いた剣で正眼の構えを取る。
これでようやく間合いの不利が解消した。
とは言え油断はできない。
この剣も魔術的な強化は施されているが、巨人殺しの魔剣は別格だ。
まともに打ち合えば負ける。
考えて戦わなければいけない。
(この感覚……久々だな)
僕はレナとの距離を確かめながら右回りに歩き始める。
再生を終えたレナは、血の付いた唇を笑みに歪めていた。
彼女も同じように回り始める。
付かず離れずの位置から、どちらともなく駆け出した。
そして互いの剣が衝突する。
甲高い金属音と共に、顔の前で火花が飛び散った。
「……ッ」
レナの目に驚きが走る。
ただの剣に魔剣の一撃を弾かれるとは思わなかったのだろう。
その反応も当然だ。
本来なら魔剣がこちらの防御を打ち砕くはずだった。
僕は踏み込みながら刺突を繰り出す。
それをレナは魔剣で横に逸らした。
やはりこちらの剣は壊れない。
(これなら対抗できそうだ)
魔剣と打ち合えているのは、強化魔術のおかげだ。
衝突する瞬間のみ、剣を強化して性能の差を埋めたのである。
再生能力により、強化魔術を連発できる今だからこそ使える技だった。
かなり強引なやり方だが、レナの予想を上回れたようだ。
僕は間を置かずに斬撃を叩き込んでいく。
魔剣の力を解放したレナは、絶妙な形で防御し続けた。
彼女はますます笑みを深めていく。
「さすが勇者だ、ねっ」
唐突にレナが片脚を振る。
そこから何かが射出された。
視界の端に映るのは小さなナイフだ。
装着していたものを蹴り飛ばしたらしい。
真っ直ぐに飛んだナイフは僕の片目を捉えた。
猛烈な痛みを伴って視界の一部が潰れる。
同時にレナの姿が消えた。
潰された片目の死角に潜り込んだのだろう。
そこから風圧を感じて、顔面に重たい何かがぶつかる。
(何、だ……?)
僕は辛うじて首を曲げる。
そこにはレナの蹴りが突き刺さっていた。
足がナイフを片目の奥まで押し込んでいる。
致命傷だった。
頭部の損傷は動きが鈍ってしまう。
いくら僕でも直撃は不味い。
それを承知の上で、レナは仕掛けてきたのだ。
レナが勝利を確信した顔を浮かべる。
駄目押しに魔剣を掲げた彼女は、そこで不審な目をした。
ゆっくりと視線を下ろして、あることに気付く。
血に濡れた僕の剣は、勝ち誇るレナの首を穿っていた。




