テロリズム
あれから四日後の夕方のことだった。
空には「バベルの塔」と名づけられたあの要塞が浮かんでいた。要塞からはおびただしい数のカプセルが放たれ、それらはまるで意志を持っているかのように世界のあちこちへと飛んで行く。これらはかつて地上にバベルを振り撒いた――――あのカプセルだ。それも、宇宙船が撃ち落とされた直後に放たれたものよりもはるかに数が多い。無数のカプセルは空を覆いつつ、世界中へとまんべんなくばら撒かれていく。更に、バベルの塔に搭載されたいくつもの大砲からは巨大なレーザービームのようなものが放たれ、ビル群は容赦なく砂風に変えられていった。
無論、これは「あの男」が仕掛けたクーデターである。
この時、反逆の会のインダルジェンスたちは近代的な見た目をした航空機に乗っていた。彼らは今、かつての拠点である首都圏外郭放水路の上空にいる。航空機の窓から地上を見下ろしつつ、朱朔は嬉々とした微笑みを浮かべた。
「始まったようですね」
もし彼の言っていたことが正しければ、明日には原罪者が絶滅することとなる。彼を慕う乗員たちが窓の外を眺めると、数多の空軍機が次々とバベルの塔のレーザーに撃ち落とされていく光景が目に映る。いかなる銃撃や爆撃も、超古代文明の要塞にはまるで通用していない。その上、この要塞は反逆の会の航空機を守るような立ち回りをしていた。この天変地異を前にして、ありさは度肝を抜かれるばかりだ。
「一体……あなたは何をしたのですか!?」
バベルの塔が大気圏内に現れる少し前まで、朱朔はずっと山奥にいた。その後の彼は航空機に乗り込んでいたため、大きな行動を起こせるようには到底思えない。だからといって、彼の他にこんなことを仕掛けられそうな人間はいないだろう。
朱朔は言った。
「あの数日間、僕はバベルの塔を遠隔操作するためのハッキングに没頭していました。そして今日、バベルの塔は地球に迫り、原罪者に牙を剥いたのです」
未知の文明のデータを解読するだけでは飽き足らず、彼はついに未知の文明の産物を遠隔操作し始めたらしい。その行動力や技術は優れているが、それ以前に彼はあまりにも手段を選ばない男であると言っても良いだろう。この時、ありさの脳裏には一人の少女の姿が浮かんでいた。
(風音……!)
依然として、彼女は風音のことばかり気にかけていた。ありさはすぐに航空機の扉を開き、二丁の銃を手にしてから外に飛び降りた。
乗員たちは目を疑った。
「おい……嘘だろ!?」
「ありさ先輩! 死ぬつもりですか!?」
「馬鹿な真似を……」
航空機の高度は千メートルを超えている。そのまま地上に落ちれば死は避けられないだろう。ありさは飛行中の空軍機の操縦席を狙撃し、パイロットを葬った。銃弾によって開けられた風穴を中心に、キャノピーには大きな亀裂が入っている。ありさはその中心へと飛び込むようにキャノピーを粉砕し、コクピットに乗り込んだ。
「待っていろ……風音」
一体、何がここまで彼女を駆り立てるのだろうか。彼女は誰よりも鉄砲が似合う女だが、誰よりも無鉄砲な女でもある。それを差し引いてもなお、今の彼女の行動はあまりにも常軌を逸脱している。ありさは空軍機を操縦しつつ、他の戦闘機のキャノピーも狙撃していく。キャノピーに開けられた穴からバベルに感染した軍人たちは化け物に姿を変え、機体を内側から破壊しながら地上へと落下していく。
その様子を航空機から見下ろしつつ、インダルジェンスたちは言葉を失う。
(すげぇ……)
(アメリカのアクション映画かよ……)
(つ……強すぎだろ……)
それは尊敬よりも畏怖に近い感情であった。ありさの勇姿は、もはや味方にさえ恐怖を与えていた。
しかし、彼女の無茶はこんなものでは終わらない。
(戦闘機を触るのは初めだし、安全な着陸はできなそうだな)
ありさはそう考えつつ、機体を低空飛行させる。空軍機はろくに減速していなかったが、そんなことはお構いなしだ。
――――彼女は操縦席から直接飛び降り、難なく地上に着地した。乗り捨てられた機体は半壊した建物に突っ込み、炎をまといながら大破した。




