一騎打ち
ありさが地上に降り立った時、反逆の会の宿敵とも言える男が空軍機の爆発する音を聞き取っていた。そう――――雄造は風音を倒すためにこの場所に戻ってきていたのだ。黒い煙の立ち込める無人の街にて、彼はありさと鉢合わせした。二人は半ば臨戦態勢になりつつ、互いににじり寄り合う。湯水のように湧き出る感染者や土地を焼き払うレーザーなどは、もはや彼らの眼中にはない。
この緊迫感は、まぎれもなく純然たる殺意によるものだ。
雄造は口元に不敵な笑みを浮かべていたが、その眼差しは真剣そのものだった。流石の彼も、銃の天才を前にすれば油断はできないらしい。
「よぉ姉ちゃん……会いたかったぜ! もっとも、お前が原罪者だったなら……の話だけどよ!」
「……答えろ。風音はどこだ?」
「ちょうど俺も探していたところだよ! だが心配しなくとも、俺が必ずお前とアイツを同じところに送りこんでやるさ! この喧騒の中じゃ安らかな眠りは約束できねぇけどな!」
「あまり無駄口を叩かない方が良い。いつ死んでも良いよう、遺言にうってつけの言葉だけを口にするんだな」
「言うじゃねぇか……レディ!」
これ以上の御託は必要ない。両者ともに、目の前の宿敵を葬り去ることしか頭にないのだろう。
――――ありさは銃の引き金を引き、雄造は両手に電気を溜めた。
先に放たれたのは銃弾だったが、雄造のこめかみはそれを難なく弾き返した。鋼鉄の体には弾丸が通らないようだ。
(正攻法では銃が通用しないのか。どうやら、あの男の倒し方は戦いながら模索するしかないようだな)
死を恐れないありさにとって、こんな状況は取り乱すに足らなかった。眼前のサイボーグの両手から電撃が放たれたが、彼女は間一髪でそれをかわした。電流は光と同じ速さのはずであり、本来それをかわすのは不可能なはずだ。
事実、彼女は「電撃が撃たれた後」に攻撃をかわしたわけではない。雄造はそれを見抜いていた。
(俺が高圧電流を放つ向きを瞬時に予測し、放電の直前に攻撃をかわしたか。この女、タイマンにも相当慣れてやがるな)
一方には銃弾が通らず、もう一方は敵の動きを読むことができる。これは双方にとって厳しい戦いだが、多少ありさに分が悪いだろう。しかし、彼女はここで可能性を見失うような人間ではない。
(外殻となる金属に傷をつけることは出来なくとも、体を振動させることはできるはず。そして、この男には感情がある。見つけたかも知れない。この男を倒す糸口……わずかな可能性を!)
どうやら、ありさは何かに気づいたようだ。どんな強敵を前にしても、彼女は物事を冷静に分析することができる。
一方で、雄造もまた何かをひらめいていた。
(二本の電流を飛ばしても、動きを読まれて避けられちまう。だが、あの姉ちゃんも人間である以上、地に足をつけることは避けられないはずだ! 次に俺が電撃を放てば、お前は確実に死ぬ!)
戦況を読みながら戦っているのは彼も同じだ。命のやり取りの中で、二人は意識を研ぎ澄ませている。
雄造はありさの足場をめがけて放電した。地に足をつけている限り、この電撃を回避することは不可能だ。ありさは咄嗟に後方へと跳躍したが、その足下の高圧電流は地面に帯電し続けている。
(着地したら……電撃の餌食か……!)
残された時間は一秒にも満たない。帯電が収まるまでの間は、地に足をつけるわけにはいかない。
(届け……隣の足場まで……!)
彼女は上空に二丁の銃を投げ、空中で海老反りになった。それから少し離れた瓦礫に両手をつき、ありさは両腕で全身を支えながらそこに着地した。続いて、彼女は頭上から落ちてくる二丁の銃をそれぞれの手でキャッチする。一先ず、先ほど足場に放たれた電撃はかわすことができた。
その一瞬の隙を、雄造は決して見逃さない。
「今だ!」
咄嗟に放たれた高圧電流は、ありさが着地したばかりの足場に容赦なく帯電した。




