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手術

 反逆の会によるクーデターは続いた。多くの軍人が命を落とし、彼らの軍隊にも劣らぬ強さに度肝を抜かれていた。特に、桐ヶ谷(きりがや)ありさ一人が飛びぬけた猛威を振るっていたことは言うまでもないだろう。一方で、軍隊の方でも一人の強者が動き始めていたことを、反逆の会の人々はまだ知らない。



 ***



 とある研究所には、三人の男が集結していた。一人は若い科学者、もう一人は初老の医者、残る一人は中年の軍人だ。



 科学者は尋ねた。

「本当に良いのですか? もう元の人間には戻れませんよ。脳の一部を除いて、あなたの体は完全に機械となり果てます」

 つまるところ、この研究室では人間をサイボーグにする手術が施されようとしているらしい。軍人の身を案じているのは彼だけではない。医者もまた、この「手術」にはあまり賛成していないようだ。

「それに、これは前代未聞の手術になります。仮に成功したとしても、あなたは五感の一部を失うことになりますよ」

 とても穏やかな話とは言いがたい。軍人はすでに覚悟を決めていたが、それでもリスクについて知っておきたい気持ちはあった。

「どういうことだ?」

 当然の疑問である。自分が五感の一部を失うことになるのならば、最低限その理由だけは聞いておきたいものだろう。怪訝な表情をする軍人に対し、科学者は手術における注意事項を説明した。

「現代科学では、脳と繋がれたCPUは処理速度が著しく低下してしまうのです。これを解消するには、脳に備わっている機能そのものを減らしてCPU使用率を下げなければなりません。当然、視覚や聴覚などの重要な機能は残しますが、味覚や嗅覚などの不要な感覚は取り除くことになります」

 何事にも限界は付きまとうものだ。ましてや、文明や科学技術のような人の手によって生み出されたものであればなおさらである。この手術を受ければ、中年の軍人は多くを失うこととなる。しかし、彼はこれから己の身に起きようとしていることを笑い飛ばし、並々ならぬ懐の深さを見せた。

「まあ、女房の手料理にお世辞を言う分にはちょうど良いさ!」

「いえ、愛する妻の手料理すら食べられなくなります。あなたの肉体の動力源も燃料電池になりますので……」

「なぁに、夜食のおでんがお電気になるだけだろう? それをアンフェアだとは思わねぇよ! どっちかと言やぁ、アンペアだな!」

 この状況で冗談を言える者はなかなかいないはずだが、彼はその限りではない。滅多なことでは動じないのはもちろんのこと、この男は「滅多にないこと」でさえ動じない。兎にも角にも、彼の度量が常軌を逸していることに疑いの余地はない。


 むしろ、医者と科学者の方がよほど動揺しているくらいだ。


 医者は最終確認をした。

「……では、覚悟は出来ているということでよろしいですね?」

「ああ、準備万端だ! この体をバベルにくれてやるくらいなら、いっそ捨ててやった方がマシだと思ってる! だから俺は機械の体に生まれ変わることを望むのさ!」

「わかりました。それでは手術を開始します」

――――即決だった。この軍人は迷いやためらいとは無縁なのだろう。科学者たちは依然として気が進まない様子だったが、もはや彼を引き留めることはできないと察したらしい。二人は手術に取り掛かった。



 ***



 三日後――――男は手術台の上で目を覚ました。まず初めに、彼は自分の掌を見つめた。その手は生身の頃と何ら変わらない見た目をしているが、その内側には複雑な機械がたくさん詰まっているのだろう。

(俺が生きているということは、手術は成功したのか?)

 おもむろに上体を起こし、軍人は研究室の中を見渡した。彼の目の前には、手術を担当した医者と科学者がいた。

「手術は成功しました」

「見た目ではわかりませんが、今のあなたの体は機械でできています。手術の前にも説明した通り、食事はとらないでください」

 二人が言うには、男をサイボーグに改造する手術は無事に成功したらしい。軍人は手術台から降り、彼らに別れを告げた。

「もし俺がそのことを忘れて飯を食っちまったら、その時はまた世話になるぜ!」

 彼は封筒入りの大金を手術台に置き、研究所を後にした。

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