第14話
ハジメは、あらゆるメディアを使って叫び続けた。
「一週間後、この場所で、この時間に脱線事故が起きる。
原因は運転手の不注意だ」
当日の現場には、野次馬とカメラがずらりと並んだ。
運転手は記者に囲まれ、怒号を浴びせられる。
「お前のせいで死ぬと言われている気分はどうだ!」
そんな状況で、不注意など起きるはずがなかった。
事故予定時刻は、あまりに静かに、何事もなく過ぎ去った。
◇
当然、ハジメには批判の嵐が吹き荒れた。
「ハジメのデマのせいで仕事休んだぞ!」
「大スクープだと思ったのに、ただの空振りじゃねえか!」
ネットもワイドショーも、
ハジメを「オカルトに狂った道化」として叩き伏せる。
けれど、テレビに映るハジメは――
どこか清々しく笑っていた。
彼は、この批判を最初から受け入れるつもりだったのだ。
芸能界を干される覚悟。
自分を救ってくれた“あの女の子”の正しさを証明するために、
彼は自らの評価を泥に投げ捨てた。
◇
翌週のラジオ。
ハジメの声は、いつもよりずっと力強かった。
「……ある女の子の話をさせて。
彼女は父親の無理心中に巻き込まれてビルから落ちた。
けれど奇跡的に助かり、未来が見える能力を得たんだ。
でも、彼女のウィンドウに映る未来では、彼女は死んでいた」
私は息を呑んだ。
「その子が僕を救ってくれた。
『あなたは三年後に死ぬ』って」
ハジメは淡々と語り続ける。
「電車の事故も、彼女に教えてもらったんだ。
だから僕はテレビで言った。
そうすれば、運転手のミスは限りなくゼロになるから」
「占いが外れたって叩かれているけど、最後に一言だけ言わせてほしい」
マイクの向こう側へ、彼は優しく呼びかけた。
「――占い師さん。僕は、大勢の命を救ったぞ。
君の力は、こんなにもたくさんの人を救えるんだ。……ありがとう」
アパートでラジオを聴いていた私は、膝を抱えてボソッと呟いた。
「……お母さんに、会いたいな」
「会えばいいじゃない」
背後から、結お姉ちゃんの声がした。
「……えっ、独り言なんだけど」
「会えばいいじゃない。私がついていってあげるから」
迷いのない笑顔。
その手は、あの日と同じように温かかった。
◇
数年ぶりに訪れた、懐かしい家の前。
震える指で呼び鈴を押すと、中から母さん――景子が顔を出した。
彼女は一瞬で私だと気づき、言葉もなく抱きしめた。
「絢……絢……!
今までどこに……どこに行っていたの……!」
私は泣きながら、これまでのすべてを話した。
家出の理由、結お姉ちゃんとの生活、ハジメとの出会い。
母さんは静かに聞き終えると――
私の頬を、軽く、一発だけ叩いた。
「バカな子。
そんなことで、お母さんが幸せになれるわけないじゃない」
母さんは再婚していなかった。
私の消失が、彼女の時計を止めていたのだ。
私は結お姉ちゃんを紹介した。
「この人が、私を助けてくれたの」
母さんの「お礼」と「警察に届けなかったことへのチクチク攻撃」が始まる。
私は慌ててお姉ちゃんを庇った。
「違うの!
私がウィンドウを見て、『この人なら大丈夫』って選んだんだから!」
お姉ちゃんが遠い目で呟く。
「……絢ちゃん、それ庇ってる?
それとも私にとどめ刺した?」
家の中に笑い声が響いた。
止まっていた時間が、ようやく動き出した。
すべてが救われ、すべてが上手くいく。
そう信じて疑わなかった――その矢先。
事件が起こった
私は――攫われた。




