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第13話

「結お姉ちゃん、ごめんね……」


声が震えていた。

胸の奥に溜め込んでいた言葉が、堰を切ったように溢れ出す。


「私、結お姉ちゃんを利用した。

結お姉ちゃんは、500万の借金を返しながら、地味に、でも確実に生きていく未来が見えた。

……本当の未来では、半年後に素敵な男性と出会って、結婚するはずだった」


結お姉ちゃんが息を呑む。


「だから、私はお姉ちゃんのアパートを出たの。

私がそばにいたら、その未来を壊しちゃうから」


私は続けた。


「私は“私のいない未来”になるように、ずっと努力してきた。

私と会うことで多少は未来がズレても、数分、数日で元に戻るように……

そう心がけて生きてきた」


そして、喉が痛くなるほどの後悔が込み上げる。


「私の失敗は……ハジメの死を、ハジメ本人に教えてしまったこと。

あれで未来が大きく変わった。

未来が……変わりまくる。

お願い、やめてよ……

もう、未来を大きく変えないで……」


結お姉ちゃんは、絢の家出の真相を初めて聞いた。

これまで彼女は、

「絢は未来が見えるようになって、全部嫌になって逃げた」

――その程度の認識しか持っていなかった。


沈黙を破ったのは、ずっと話を聞いていたハジメだった。


「……あのさ、絢」


彼は静かに言った。


「君が生きている。

なら、その未来はもう“違う未来”なんだよ」


「えっ……?」


「君が見てる未来は、君が死んでいる前提の未来なんだ。

それはもう、“過去の未来”なんだよ」


私は息を呑んだ。


「君が僕に未来を教えてくれる。

それが――新しい未来なんだ」


「……そんな……」


「君が死ななかったことで、未来は変わった。

君が未来を見る能力を持つ未来に変わった。

君が“死ぬ前の未来”を、がらっと変える未来に変わったんだよ」


「なっ……」


ハジメは優しく、しかし確信を持って続けた。


「未来は誰にもわからない。

君は、明日の晩ごはんが何か、わかるかい?」


「私は……人を見るだけで、勝手にウィンドウが開くの。

見たくもない未来や過去が勝手に流れるんだよ。

それが……その内容がデタラメなんて……

じゃあ、なんで私はウィンドウが見えるのよ……」


「未来を変えるためじゃないか」


ハジメの声は、まっすぐだった。


「たくさんの人の命を救えるんじゃないか。

僕は毎日、朝7時に新聞を読む。

僕の生きてる三年分でいい。

その“毎日の7時”をパッパッパと見てさ……

君が救えそうな未来って、ある?」


私は震える指で、未来をめくった。

そして――止まった。


「……電車の脱線事故の未来が見える。

一週間後。大勢の人が死ぬ」


「具体的に、何月何日、何時、何線、原因は?」


私は素直に答えた。


ハジメは静かに頷いた。


「もし僕がラジオやテレビでそれを言ったら……

大勢の人が助かるかもしれない。

それだけで、君が見えるウィンドウの意味があるじゃないか」


そして、優しく言った。


「君が生きた意味。

結さんが君を守った意味。

僕と出会った意味。

全部……そこにあるんじゃないかな」


私は――わからなくなっていた。


自分が何者で、

何のために生きていて、

何を守るべきなのか。



気づけば、結お姉ちゃんはケーキセットを食べ終えていた。


「絢、今日はもう帰りましょう。

あなたは今日のこと、将来のこと……もっと冷静に考える時間が必要でしょう」


私は黙り込んだまま、席を立てなかった。


「ハジメさん、今日はありがとうございました。

ここから先は、絢は自分で考えて行動できると思います」


結お姉ちゃんは深く頭を下げた。


「絢……今まで自分のことを言わなかったし、私のこともあまり見ようとしなかった理由が、ようやくわかりました。

ありがとう」


そして、私たちはレストランをあとにした。

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