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第11話


結お姉さんの特訓から半年。

私は「昨日何食べたかを言い当てる不思議な占い師」として、

館でも指折りの人気者になっていた。


お姉さんの教え通り、事実を“ぼかして”伝える技術も板につき、

私のブースには連日、導きを求める人々が列を作った。


そんなある日――

私の世界が音を立てて崩れる事件が起きた。


「……えっ」


目の前に座った女性を見た瞬間、私は自分の目を疑った。

二度見、三度見。 けれど、結果は変わらない。


彼女の頭上に浮かぶウィンドウが――

真っ黒だった。


私の知る1999年の記録ログに、彼女の“続き”は存在しない。

過去をスキャンすると、彼女は二ヶ月前、自ら命を絶っているはずの人間だった。


「もしもーし。おーい、先生?」


「ハッ……! ご、ごめんなさい……」


彼女の声で我に返る。

心臓が、うるさいほどに脈打っていた。


「ここ、よく当たるって聞いたんですけど。占ってもらえますか?」


占えない。

この人の先は、どこにも書かれていない。


「……わかりません」


「え?」


「ごめんなさい。貴方の未来は……私には、わかりません」


支配人に怒られる恐怖よりも、

目の前の“生きた亡霊”への困惑が勝った。


私は、口にしてはいけない禁忌を、震える声で吐き出した。


「外れてしまった『貴方の過去』なら、見えます。

……二ヶ月前、貴方は自ら命を絶ち、

この世からいなくなっていたはずの――偽りの過去きろくなら」


女性は一瞬目を見開き、やがて自嘲気味に笑った。


「……わけわかりませんが、大体わかります。

実際、二ヶ月前までは毎日、死ぬことばっかり考えてましたから」


「じゃあ……なぜ、死ななかったんですか?」


「死んでほしかったんですか?」


悪戯っぽく笑う彼女から、私は初めてその名を聞いた。


ハジメ。

彼が始めた『ラジオ人生相談』。


どん底にいた彼女は、ハジメの言葉に救われ、死ぬのをやめたのだという。

そして「何かを変えたい」と思って、この占いの館にやってきた。


「そっか。占いでは、私、死んでたんだ」


ぽつりと呟く彼女に、私は何も言えなくなった。


「ごめんなさい……」


「えっ、なんで謝るの? 別にいいよ。

最近評判の占い師さんに、『二ヶ月前、死ぬほど辛かった事実』を

言い当ててもらったんだから。 十分すぎるくらい当たってるよ」


「でも、未来が……」


「死んでるはずだったんなら、もうしょうがない。

死んだ気になって、精一杯働いてみるよ。ありがとう、先生」


彼女は晴れやかな顔でお金を払い、去っていった。


私はその背中を見送ることすらできず、

支配人に体調不良を訴えて、逃げるように店を飛び出した。



自分以外で、ウィンドウが黒い人間を初めて見た。


ハジメ。

お願い、やめて。

もう、やめてよ。


確かに私も、結お姉さんの運命を変えた。

ハジメの命も救った。


けれど、ハジメがやっていることは、それとは規模が違う。


彼は、私が知っている「正しい未来」を――

何千人分、何万人分も、無差別に、暴力的に書き換えようとしている。


私の知る世界が、音を立てて消えていく。

私の唯一の指針である「1999年のログ」が、ゴミ屑になっていく。


(ハジメを止めないと……大変なことになる)


真っ白な未来を「贅沢だ」と笑った彼の顔が浮かぶ。


予言者としての私の居場所を、

彼は、その“善意”で焼き尽くそうとしていた。

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