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第10話

アイドルの名は、ハジメ。


命の恩人わたしへの感謝を胸に、

彼はラジオの生放送という公共の電波を通じて語り始めた。


「――それでね、こないだ、たまたま人間ドックに行ったんですよ。

会社員なら年一回の健康診断があるけど、僕らタレントってそういうのないからさ。

でもね、行ってみたら見つかっちゃったんだよね、初期のガン」


スタジオの空気が凍りつくのが、スピーカー越しに伝わってくる。

けれど、ハジメの声はどこまでも明るかった。


「でも大丈夫! もう取っちゃって完治したから。

初期だから本当、あっという間で。

でも、もしあの時行ってなかったら、

僕、三年後に死んでたんだぜ? 怖いよねぇ。

だからみんな、僕と一緒に長生きしよう。

健康診断、受けような。……それではリクエスト、来ています」


この放送は瞬く間にニュースとなり、日本中の話題をさらった。


一週間後の放送では、リスナーからの感謝メールが殺到した。


「ハジメ君の話を聞いて、私も検査に行ってきました」

「僕も父を病院に連れて行きました」


彼自身も、あの日を境に何かが変わった。


自分が死ねば後を追う者がいる――

その事実を知った彼は、ただ輝くだけのスターから、

誰かの人生に寄り添う“伴走者”へと進化しつつあった。


絢の知る「1999年の未来」には存在しなかった、

ハジメの『人生相談コーナー』。

彼の言葉一つひとつが、本来死ぬはずだった、

あるいは絶望していた誰かの未来を、

ゆっくりと、けれど確実に書き換えていく。



一方で、当の救世主である私はというと――

潜伏先のアパートで、結お姉さんによるスパルタ指導を受けていた。


「いい、絢! 自分の能力で得た“正解”を

そのまま口にするのは三流のやることよ!

占いはね、『つかみ』と『ぼかし』がすべてなの!」


「……ぼかし?」


ノートを片手に首を傾げる私に、結お姉さんはビシッと指を突きつけた。


「そう! 最初は『昨日、魚を食べましたね?』とか

『麺類を食べましたね?』くらいで止めておくの。

相手が『あ、当たってる……!』って勝手に驚いてくれる

くらいがベストなのよ。

いい? 決して『○○軒の二階席で、チャーシュー麺の

メンマ抜きを食べましたね』なんて言っちゃダメ。

ストーカーだと思われるわよ!」


「事実なんだから、いいじゃん」


「ダメよ! 正確すぎる答えは、人を恐怖させるか、疑わせるだけ。

占いはね、相手の話を聞いてあげるための“きっかけ”に過ぎないの。

基本は聞き役に徹して、話の流れでちょこっとだけ結果を添える。

そして、その結果は必ず――」


結お姉さんは、私の鼻先をツンと突いた。


「『ぼかす』こと! わかったわね?」


アンゴルモアの王、15歳の夏。

100%の真実を視る瞳を持ちながら、

“いかに嘘っぽく、それらしく伝えるか”という、

人間社会の矛盾した技術スキルを叩き込まれる日々。


結お姉さんの熱血指導は、まだ始まったばかりだった。

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