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詰んだ俺を拾ったのは、美人喫茶店主でした~隙だらけのポンコツ姉さん育成計画~  作者: よるひ


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第17話 満員御礼

 6月も終わりの頃。閉店間際のサウダージは最後のお客さんが退店していくところだ。


「ありがとうございましたー!」


 お店の看板は消灯済み。明日は定休日だ。お店の掃除と片付けを淡々とこなす。

 澪さんはカウンターでぐったりとしていた。


「ああ疲れたー。毎日お客さんいっぱい来てくれるのは嬉しいけどさ、休む間もないのは辛いね……」


「そうっすねー。コーヒー淹れられるのは澪さん頼みだからこればっかりは仕方ないっす」


 ブラウニーセットと女装男子の効果は想像以上だった。

 最初に来てくれた大学生カップルは新規開拓系のインフルエンサーだったようで、SNSのポストはプチバズリ状態になっていた。

 おかげでブラウニーセットは連日即完売。慌てた俺は美冬に相談して、シフォンケーキセットも新たに販売開始した。こっちはある程度の粗利を見込んでいたので、売れれば売れるほど美味しい商品となった。


「湊くんってすごいね。潰れそうな不人気店を3ヶ月程度で人気店って言えるぐらい復活させちゃったんだから」


 澪さんの熱い眼差しに、思わず視線を逸らしそうになった。正直、俺自身もここまで売上が伸びるとは予想していなかった。


 俺の商才と言い切るにはあまり自信もない。結果としては売上は伸びたが、少々奇を衒ったやり方でもあったし、澪さんのコーヒーの美味しさが常連を増やしているのは間違いなかったと思う。


「澪さんあってのサウダージっすよ。さ、そろそろ晩ごはんの支度してきますね。今夜は天ぷらにするっす」


「やったー! 揚げ物ひさびさね! 明日は休みだしビールが捗る!」


「あはは、飲み過ぎ注意っす。今日は俺も飲みたい気分かも」


「ふふ、じゃあ楽しみにしてるね」


 澪さんは鼻歌交じりに片付けの続きを始めた。

 よし、澪さんのために最高の天ぷらを作ろう!



 今日のメニューは銚子港の入梅イワシが手に入ったのでイワシの天ぷらがメインだ。

 この時期の脂の乗ったイワシは多分天ぷらの中でもトップクラスに美味しいと思う。


 いわしは手開きで処理していく。エラから指を入れ頭をぐりっと外すと骨まで綺麗にさっと取れる。身は柔らかいので崩れそうになるが、慣れるとサクサク開けるようになる。

 鮮度が良いので酢漬けも予め作っておいた。

 ふふ、いい感じに浸かってるようだ。


 ジュワーッと天ぷらの揚がる音が心地いい。揚げ物の油の香りが鼻腔をくすぐる。香ばしい香りに俺の食欲も刺激される。


 ちょっと一枚つまみ食い。天つゆも美味しいけど、揚げたては塩で食べるとほんと美味しい。

 サクサク且つふわふわで脂の甘みがたまらない。このタイミングで食べられるのは料理人の特権かな。


 あとは澪さんが好きなさつまいもとナスを揚げて完成!


 先にお風呂に入った澪さんが丁度出てきたところだ。

 湯上がりの艶めかしい格好に思わず喉を鳴らす。


 キャミソールに短パン姿と、以前のよれよれTシャツを好んで着ていた時より気を使うようになったようだ。

 その分魅力が増してしまって、目のやり場に困るようになった。

 ポンコツ姉さんがどんどん綺麗になっていくのは嬉しくもあり悩ましくもあるなあ。


「すっごーい! 美味しそうだね! いわしの天ぷらなんて初めてかも」


「うっそ、まじすか。これ食べたことないなんて人生損してますよ!」


「大げさだなあ湊くんは。さあ、乾杯しよう! 今日も満員御礼! かんぱーい!」


「数秒後に悶絶する澪さんにかんぱーい!」


 風呂上がりのビールを美味しそうに飲む澪さん。その良い飲みっぷりには惚れ惚れする。

 早速いわしの天ぷらを口にする。一瞬で目がとろんとした。ふふ、堕ちたな。


「なにこれー! すっごい美味しいー! 身がふわっふわ! いわしってこんなに美味しいの!?」


「いわしは美味いんすよ。特にこの時期のいわしは格別なんです。入梅いわしって言われてて脂が乗ってるんですよ」


「こっちの酢漬けもおいしー! ホントいつもありがとうね湊くん!」


「いいえー、こうして住まわせてもらって、けっこうな食費もらってるんすから当然ですよ」


 澪さんはお金に関して少々ルーズなところがある。だからなるべくお店の売上で生活できるレベルでの食材でやりくりしてきていた。

 最近は店の売上がかなり伸びたので、俺に臨時ボーナスをくれた。そのお金を食費としているので予算はかなりある。


「そのお金って、湊くんのお金なんだから自分のために使って欲しいな。食材は私が払うよ」


「いいんすよ。多分サラリーマンで毎月自分でやり繰りしてるよりもお金は余るから」


 自分で家賃や光熱費を払った後に残る額よりは余裕があるのは確かだった。都内で生きるのはそれだけ大変なことだ。


「お金がなくなったらいつでも言ってね。お姉さんこうみえて資産家なんだから!」


「そんなこと他所で言っちゃ駄目っすよ。変なのが押し寄せますよ」


「あう、それは怖いね……。でも、湊くんて慎ましいよね。贅沢とかしなそうだし」


「貧乏性なんすよ。それ言ったら澪さんだってそんなに散財しないんじゃないすか」


「そうでもないよー。デジタルな方には結構使っちゃってる。F●NZAとか」


「……そっすか」


 多分お金の使い方としてはあまりよろしくない方で消費してるのか……。

 お金使ってる感覚鈍りそうだなあ。

 澪さんの将来がちょっと心配になってきたのは余計なお世話なんだろうか。



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