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第8話:Aランクの常識とゼリーの川

セリアとの二人旅が始まって三日。俺たちの間に会話らしい会話は、ほとんどなかった。彼女が口にするのは、必要最低限の指示のみ。その背中は、俺をパートナーではなく、ただの「護衛対象」としか見ていないことを雄弁に物語っていた。


そして旅の四日目、俺たちは最初の難関にぶつかった。目の前に広がるのは、幅30メートルはあろうかという激流の川。本来そこにあったはずの頑丈な石橋は、数日前の豪雨で崩れ落ちていた。


「…参ったな。これでは渡れない。回り道をするしかないか…だが、そうなると三日はロスする…」

彼女が地図を広げ、苦虫を噛み潰したような顔で唸る。その時だった。


「本日もスキルガチャの時間でーす!」


脳内に、もはや聞き慣れた軽快な音が響く。今日こそは、何か使えるスキルを…! 俺は祈るようにガチャを回す。カプセルから出てきたのは――


【指定した液体を10秒間だけ、粘度10倍のゼリー状にする】


俺は新スキルの説明文を読み、そして目の前の激流を見た。

「セリアさん、ちょっと待ってください。もしかしたら、この川、渡れるかもしれません」

「は? 寝言は寝て言え。この激流が見えないのか?」


セリアは俺を鼻で笑った。俺は川に向かって、スキルを発動した。対象は、目の前の川の水。

次の瞬間、奇跡が起きた。


ゴゴゴゴゴ…という地響きのような音と共に、激しく渦巻いていた川の流れが、目に見えて緩やかになる。そして、水面はみるみるうちにその流動性を失い、まるで巨大な水色のゼリーかスライムのように、ぶるん、と揺れる塊へと変貌したのだ。


「なっ……!?」


セリアが信じられないものを見る目で、その光景に絶句している。

「10秒だけです! 走って!」


俺は叫ぶと同時に、ゼリー状になった川面に飛び乗った。足元はトランポリンのように弾むが、沈むことはない。セリアは一瞬ためらったが、意を決したように後を追ってきた。俺たちが対岸にたどり着いた、まさにその瞬間。足元のゼリーは再び元の激流へと戻り、轟音を立てて下流へと流れていった。


「はぁ…はぁ…間に合った…」

俺は息を切らしながら対岸にへたり込んだ。隣で、セリアは息一つ乱さずに立っていたが、その翠色の瞳は、初めて俺という存在を「理解不能なもの」として捉えているようだった。


「…今のは、何だ?」

「だから言ったじゃないですか。俺の、スキルです」


俺はニヤリと笑って見せた。セリアは何も言わず、ただ元に戻った川面を、しばらくの間、黙って見つめていた。その横顔から、ほんの少しだけ、侮蔑の色が消えたような気がした。

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