第6話:価値の証明
ギルドマスターの執務室。壁には巨大なワイバーンの頭蓋骨が飾られている。
「しがない冒険者が、ただの石ころを神造武具レベルの鏡面に仕上げられるか。しがない冒険者が、Bランクのベテランを言葉だけで黙らせられるか。俺の目は節穴ではないぞ、小僧」
バロルドの視線が、俺の魂の奥底まで見透かそうとしているかのように突き刺さる。
「…俺のスキルは、少し特殊なんです。【目の前の相手が自分より格下なら、その思考が読める】とか」
その言葉に、バロルドの眉がピクリと動いた。
「面白い。ならば、証明してみせろ。今から俺が、この部屋にあるどれか一つのモノについて考える。それが何か、お前のそのスキルで当ててみろ」
試されている。だが、望むところだ。
「いいでしょう。ただし、少しだけ準備を」
俺はそう言うと、執務室の窓を少しだけ開けた。夕暮れの風が、部屋にそっと流れ込んでくる。
「準備完了です。いつでもどうぞ」
バロルドは背を向けると、壁に飾られた巨大なワイバーンの頭蓋骨の前で立ち止まり、目を閉じた。俺はバロルドにではなく、部屋全体に意識を広げ、【マインドエコー】を発動した。
途端に、膨大な思考のノイズが脳内に流れ込んでくる。部屋にいる、名もなき虫たち。壁や床に染み付いた、残留思念のようなもの。その全てが、俺のスキル対象だ。俺はそのノイズの中から、一つの明確な思考を拾い上げた。それは、先ほど窓から部屋に入り込み、バロルドの肩に知らず知らずのうちに止まっていた、一匹の小さな蛾の思考だった。
【対象:ウスバアカガネガ 戦闘力:0】
『ウワ!コノオヤジ、なんかデッカイ骨ノ穴ポコに指ツッコンダ!ナニシテルンダ?』
―――見つけた。
俺はゆっくりと口を開いた。
「…ギルドマスター。あなたが今考えているのは、そのワイバーンの頭蓋骨。特に、左目の眼窩…その奥にあるヒビについて、でしょう?」
バロルドの肩が、驚きに大きく跳ねた。
「…なぜ、そこまで分かった。眼窩の奥のヒビなど、俺と、この頭蓋骨を狩ったパーティのメンバーしか知らん」
俺はニヤリと笑い、バロルドの肩を指さした。
「あなたの肩に、小さな協力者がいたんですよ」
バロルドは自分の肩から飛び立つ蛾を呆然と見送った後、やがて腹の底から豪快に笑い出した。
「クク…クハハハハ! まさか虫の思考を読んだというのか! スキルそのものはゴミだが、その使い方、発想はまさに天賦の才! こいつはとんでもない逸材を引いたわい!」
バロルドは笑い終えると、真剣な目で俺を再び見た。その目には、もう侮りや疑いの色は一切なかった。
「小僧、ヒロト。お前に一つ、依頼を出す。ギルドからの正式な、そして破格の報酬を約束する、特別依頼だ」
彼はテーブルの上の鏡面の石を、俺の方へ滑らせた。
「お前のその奇想天外なスキルの使い方で、この街…いや、この国が抱える『最大の謎』に挑んでもらう」




