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女性の声以外、余計な音は一切聞こえなかった。そっと鼻から息を吸う音さえ無遠慮に響きそうに思え、知世は閉じた口に密かに力を込めた。
「今でも夢に見るそうです。幼稚園に通っている広嗣くんや、成人して背広を着た広嗣くん。ときには幼い広嗣くんが、突然大人に姿を変えることもあるようです。そういったお話を聞くうち、私、思いついたんです。『天国にいる広嗣くんに、お小遣いを贈る』のはどうか、と。それをお伝えしたとき、最初先生は要領を得ない不思議な顔をしていました。それはそうですよね、いきなりそんな突飛なことを言われてしまっては。具体的にはこういう提案をしました。『天国で使えるコイン』を作り、それに祈りを込めて霊前に供えるんです。それを聞くと、先生張り切ってしまって、それから私がクラウドサイトを通じて、あの『黄金色の五百円玉』の制作案件を掲載しました」
「それを、あの鋳造士が受けたというわけですね」成沢がつぶやくように訊いた。
「はい。先生は、今まで息子さんに何もしてあげられなかったことを、相当気にしておられたんでしょう。依頼は一回や二回では済まず、気付いたらいつの間にか、二階の仏壇の横に、コインをしまう金庫まで用意されました。金庫はもちろん先生が購入したものです」
成沢が茶碗を取り一口すするのを見て、知世もそうした。警部の所作には話の続きを促す狙いがある気がした。




