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一通り説明が済むと、美術家は「お世話様です」と、頭を深く下げた。
「本当はね」湿り始めた雰囲気を心配してか、警部は語気を緩めた。「銭を投げて、ばたばたと敵を倒すアクションヒーローでもいればいいんですが、あいにくうちの課にそこまで超人的な者はおりませんので」
これを聞くと美術家と介護士が、くすくすとさざめきのような笑い声を上げた。これはこの日の会合の終わりをも意味していたようで、それから、成沢の呼んだ署用車が二人を乗せ、市内の鎧塚邸に向けて出発した。
その車が美術館のかどを曲がるまで、知世は警部の隣で直立しながら見送った。警部が美術家に対し、「純金色の硬貨」について尋ねることもなかったな、と思ったがそれを口に出そうとはしなかった。口をぴったりと閉ざしつつ、明らかに頭の中で一つ一つの事象を結び付けていく警部を見ていると、無用の口出しがいかにも俗に思えてくるのだった。




