3-8
午後三時。美術館の裏側は知世にとって初めての光景だった。世間にもこんな殺風景な場所にとどまったことのある人は、そうそういまい。高さ三メートルほどの巨大なシャッターが、広々としたコンクリートの敷地と館内とを隔てている。大型トラックが十分旋回できるスペースの向こうに、緑色の金網が横一線に並んでいて、さらにその先には細長いマンションが、突然生えた植物のように屹立している。知世は、作品が運び入れられる様子をあのマンションから眺められるとすれば、それも一種の贅沢といえる、などと能天気に考えた。
「重ねて申し上げますが」成沢が鎧塚と介護士の方を向いた。「鎧塚さんのご自宅が窃盗団に狙われている可能性があります。我々が押収した名簿の中に鎧塚さんのお名前があるのは、先ほど確認していただいた通りです」
10月の寒風はそろそろ、人々の薄着に対し警告を与えようとしている。車椅子に収まる美術家の姿は外気にさらされることで、中にいた時よりもいくらか小さくなったように感じられた。
「明日以降もお二人は、午前中外出されるようで」成沢が言うと、美術家と介護士がそれぞれ遠慮がちにうなずく。「午前中には特に警戒が必要です。ご自宅が午前中に空きがちであること、そして基本的に家にはあなた方しかいないこと、犯罪組織はすでにこれらを把握しています。したがいまして」
成沢は一つ咳払いをして言った。「明日以降、私の部下を数名、護衛としてつけます。ただし、お二人はこれまで通りの生活を続けてください。むしろ、意識的にそうしていただきたい。銀行に行かれる場合は、お二人の十数メートル後を私服警官がついていきますが、その際、決して振り返らないでください。警護の存在を周囲に知られないようにしてほしいのです」




