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「三番目の部屋の、あのけばけばしさは一体どういうことなのでしょう。これは言い過ぎかもしれませんが、優れた芸術家に漏れなく備わる繊細さがあまり感じられないのです。あの何本ものワイヤーに施されたいくつものコイン、トリックアートとしては見事な出来ばえかもしれません。しかし、よくある錯視効果を狙ったものと言ってしまえば、それまでです。私が申し上げたいのは、コイン一つ一つの配色、そして鮮やか過ぎる色合いについてなのです」
男はここで、カップに残っていた紅茶を一気に飲み干した。そして、仕上げと言わんばかりに、さらにまくし立てた。
「私は断言しますがね刑事さん、あの美術家は何か重大な隠し事をしておられる。でなければ、作風があれほど不自然に変化するはずがないんです。初期の清潔な明るさを取り戻したわけでもない、かと言って、過去を振り切ったと言える進化を遂げたわけでもない。芸術を極めんとしていた彼女の高潔な意思が、突然あさっての方を向いたとしか思えないのです」
男はそこで言いやめると、息を大きく吐き出した。男の肺と熱くなった心がゆっくりとしぼんでいくところを、知世は頭の中で想像した。
「失礼。つい喋り過ぎてしまいました」
「いえ」成沢はなだめるように言った。「貴重なお話は、こちらにとっても大変参考になりましたよ」
それから警部は、どちらかというと事務的な対応に終始した。「鎧塚氏の住所は知っているか」という問いに対し、男は「品物はサイトを介して発送していたため、知らない」と答えた。それから「詳しいことがわかり次第連絡する」と言い、連絡先を交換した。すると鋳造士は一転、納得したように帰っていった。鎧塚が館内にいる、と彼に告げられることは最後までなかった。




